関西で和菓子というと、どうしても京都を思い浮かべがち。でも、大阪を忘れてはいけません。江戸のころには、“天下の台所”と称された食い倒れの街。長年、地元で愛されている、飾らない、ほんまもんの甘味があります。大阪・関西万博に沸く現地から、夏でも食べたい餅や団子の名品を紹介します。
「かん袋」の氷くるみ餅
明治のころから涼を求めて行列ができた堺の名物

「かん袋」というユニークな屋号の店は、大阪唯一の路面電車、通称ちん電が行き交う堺にあります。いわゆる大阪の中心地からは1時間前後かかる。しかも、メニューは、ほぼ1種類。それでも、吹き出す汗もなんのその、どこからともなく客がやってきて、いつも行列を作っています。
目当ては、うぐいす色のあんがかかったひと口大の餅を、削った氷が雪山のように覆った氷くるみ餅です。行列といっても、店も客も心得たもの。サービスは注文から提供まで淀みなく、客もさっと食べて帰っていくから、列の進みはトントン拍子。それがわかっているから、皆、汗を拭き拭き待っています。
たったひとつの甘味を作り続ける鎌倉時代創業の老舗

「かん袋」の創業は、かなり古く鎌倉時代末期。和泉屋徳兵衛という人が、近隣の寺社に納めるための餅屋を開いたのが始まり。名物のくるみ餅は、堺が貿易港として栄えていた室町時代の中ごろに誕生しました。
5代目の忠兵衛が、明国などから入ってくる農産物であんを作り、ひと口大の餅をくるんで茶菓子を作り、「くるみ餅」と名づけました。当初は塩味でしたが、砂糖が輸入されるようになって、甘い、いまの形になったそうです。「試しに塩味のあんを作ってみたことがありますが、やはり、おいしくなかったですね」と言うのは、27代目の今泉文雄さんです。
うぐいす色のあんは一子相伝の味

そして、明治に入り、製氷技術の進歩とともに始まったのが、氷くるみ餅。当時から、涼感を求めて、たくさんの客が列をなしたと言います。氷の山を崩しながら口に運ぶと、とろんとしたコクのある甘いあんがすっきりと、やわらかな餅もキュッと締まって、また違うおいしさになります。
ちなみに、ずんだのような、青大豆のような、きな粉のような独特のコクと甘みのあるあんの製法は、一子相伝。あんの正体は想像するしかないのですが、味は時代に合わせて、少しずつ、少しずつ変えているそうです。


くるみ餅が誕生した当時の屋号は「和泉屋」。それが「かん袋」になったのは、安土桃山時代のこと。名付け親は、大阪城を築城した豊臣秀吉だそうです。由来が記されたしおりで往時に思いを馳せながら口に運ぶと、もうひとつ味わいが深くなる気がします。

かん袋
所在地 大阪府堺市堺区新在野町東1−2−1
電話番号 072−233−1218
営業時間 10:00~17:00 売り切れ次第終了
定休日 火曜、水曜(祝日の場合は営業)
2025.07.12(土)
文・写真=#今日のあまいもん