「菊壽堂義信」の高麗餅と氷しるこ
できたてのみずみずしいあんこが沁みるオフィス街の避暑地

注文が入ると、求肥餅とあんを手にのせて握り、指の節でさっと角を形作る。「1分もあれば、できてしまいます」と語るのは、18代目の久保哲也さん。これを粒、こし、白、抹茶、胡麻の5種作り、緑鮮やかな抹茶をテッペンに皿に盛る。客はできたてを、あんがしっとりみずみずしいうちに口に運ぶ。そんな握り寿司のような菓子が、高麗餅です。
粒あんは丹波大納言小豆、白こしあんは備中白小豆、こしあんは備中小豆と最高級の豆を使用。すべて店内で炊いています。無理せず、おいしく炊ける分だけ、というこのあんが、どれも本当に香りよく、しっとりと、上品な味わいなのです。

創業は江戸後期(1830年ごろ)。船場で、商家の人々に茶席用の菓子などを作っていましたが、戦後、ビジネス街である北浜に移転。高麗餅は15代目が、“お待たせせずに、さっと出せるものを”と、65年ほど前に考案しました。「材料も作り方も当時から変わっていませんが、代々の店主によって指の大きさが違いますから、形は少しずつ違いますよ」というのも、この菓子ならでは。
高麗餅という名は、この菓子を贔屓にしていた歌舞伎役者で八代目の松本幸四郎さんが、自身の屋号である高麗屋と、店の近くにある高麗橋をかけて命名したそうです。
夏だけのお楽しみ。なめらかなこしあんを飲むように味わう氷しるこ

店内の喫茶では、高麗餅や季節の上生菓子のほか、あんを使った季節の甘味も楽しめます。そのひとつが、夏の氷しるこ。こちらも「あんのおいしさが感じられる冷たい甘味を」と、15代目が考案。こしあんと氷を攪拌し、削った氷と求肥をのせた、いたってシンプルな仕立てですが、きめ細やかなこしあんのおいしさが堪能できる喉越しのいいメニューです。


オフィス街のど真ん中。表には暖簾もかかっておらず、看板も出ていません。気をつけていないと通り過ぎてしまうひっそりとした佇まいですが、客は入れ替わり立ち替わり、電話もひっきりなし。こんなに品のいい菓子を、気取らずに楽しませてくれるのですから、その人気も納得です。

菊壽堂義信
所在地 大阪府大阪市中央区高麗橋2-3-1
電話番号 06-6231-3814
営業時間 10:00~16:30(喫茶11:00~16:00)で売り切れ次第終了
定休日 土曜、日曜、祝日
2025.07.12(土)
文・写真=#今日のあまいもん