
2022年に惜しまれつつ歴史に幕を下ろした「紀の善」。その味が、同じ神楽坂の少し上がったところで再びオープンするという知らせがファンの間を駆け巡りました。
唯一無二の味をまた食べられるのか、その裏にどんなストーリーがあるのか……さっそくお店に足を運びました。
ファンの声がつないだ、奇跡の事業継承

神楽坂の「紀の善」は、「抹茶ババロア」と「あんみつ」がことに有名で、長年にわたり多くの人に愛されてきた老舗甘味処。2022年9月末に一度その暖簾を下ろしましたが、この夏、待望の復活を遂げました。
かつての「紀の善」に思い出を持つ多くの人々が胸を高鳴らせた再オープンの日は、2025年7月18日。この再開の背景には、ひとつのあたたかな縁がありました。
新しく運営をするグループ企業の役員に「紀の善」ファンが多かったこと、そして先代の女将と共通の知人を介して事業継承が実現したこと。そんな小さな奇跡の連続が、名店の再生へとつながったのです。
新店舗の場所は、以前の店舗と同じ通り沿い。ほんの少し坂を上がったところにある店舗を目指していくと、かつての足取りが自然と思い出させれます。扉を開けるとまず目に飛び込んでくるのは、レジ前に整然と並べられたお持ち帰り用のあんみつや豆かん。その光景は記憶の中の「紀の善」とぴたりと重なり、復活の嬉しさが高まります。

店内は1階と地下1階の2フロア構成。白木のぬくもりと清潔感を基調にした客席は、江戸の粋と洗練を感じさせる和モダンの雰囲気です。地下1階の小上がりのお座敷は、旧店の二階を彷彿とさせる昭和レトロな趣。時代を超えた懐かしさが、静かに空間に満ちています。
2025.07.19(土)
文=小松めぐみ
写真=佐藤 亘