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寝室に現れた少女

 全身鳥肌。

 そこで違和感に気づきます。

 この女の子、手がない。

 手首から先がない。

 その瞬間、女の子は僕の方に体を向け、手首の断面を見せつけてきました。

 真ん中が白く、周りが赤い。

 「日の丸の逆」みたい。

 怖すぎて声が出ない。いや、呼吸ができない。

 なにこれ!? なにこれ!? ちょ、ちょっと……。

 首元に違和感があります。目線を首元に向けると、女の子の小さい手が僕の首を絞めています。

 手首の断面を見せていたのではなく、手首から先の小さな手で僕の首を絞めていました。

 両方の頸動脈(けいどうみゃく)に親指と人差し指が食い込んで、震えてる。ものすごい力をかけてるのがわかります。生々しすぎる感触。

 このまま死んでまう。

 そう思った時、

「え!?」

 奥さんの声が聞こえました。

 それで目が覚めました。

 あー夢やった……。よかった……ほんまによかった。怖すぎる夢やった。

 心霊スポット行った日やし、こんなもん見てもうたんやろう……。

「ん?」

 ふと横を見ると、隣で寝ていた奥さんが肘をついて体を起こしています。

「え、今の何!?」

「ん? なにが?」

「今……手首のない女の子が走り回ってたんだけど!!」

 奥さんは生まれてこの方、心霊現象に遭遇したことはない、霊感が全くない人間です。

 数秒の2人の沈黙……。

「うわぁぁぁぁーーーーーー」

 2人で悲鳴を上げてリビングに駆け込み、寝室のドアを閉めます。

 リビングのテレビをつけると早朝の情報番組が始まっていました。2人とも怖すぎて一切さっきの話はしません。テレビに集中します。だんだん冷静になっていきました。

 「あ、そういえば熱があるんや」と思い出して測ってみます。

 40度超え。

2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部