数十年も症例のなかったバクテリア

僕は朝一で近所の○○医院に行くことにしました。
もう歩くのもつらい。お腹(なか)も痛い。気持ち悪い。節々も痛い。
ほぼそこら辺から意識が飛んでいます。
後々聞くと、熱が高すぎるので血液検査をしてくれたそうです。そこで炎症反応が異常な数値を示しているのがわかり、臓器に異常をきたしているかもしれないので大学病院に救急搬送されることになりました。
ストレッチャーに乗せられ、搬送されてるあたりはぼんやり覚えています。ただ、意識が朦朧(もうろう)としていて、あまり記憶がないのが正直なところ。断片的にめちゃくちゃ嘔吐と下痢を繰り返していたのを覚えているぐらいです。次に意識が戻ったのは大学病院のベッドの上でした。
朝、近所の○○医院に行き、気づいた頃には外は真っ暗。まるまる12時間ほど意識が飛んでいたことになります。
意識を失い、病院で目を覚ます。ドラマやん。
なぜここにいるのか……頭の整理がついてきたと同時に、自分のベッドの周りが、ビニールのカーテンみたいなもので囲われていることに気づきます。僕は無菌室に入れられていました。
あとから聞いたら、日本で数十年も症例のなかったバクテリアが、僕の嘔吐物の中から検出されたとのこと。後日、担当医から「学会で発表したいのでデータを使わせて頂いていいですか?」と頼まれたくらいの珍しい菌でした。
なんでそんなものに感染したのかわかりません。もちろん、お医者さんの問診があって、「この2週間、どんなものを食べたか?」といったことを事細かに聞かれ、口に入れた思いつくもの全てを書き出しました。それでも原因はわからず、後日、生命保険会社に提出する書類にも「原因不明」と書かれていました。
ベッドで起き上がれないまま、やっぱり心霊スポットに行ったからかな……なんて思っていたら、奥さんが見舞いに来てくれました。奥さんは、僕が起きているのを確認した瞬間の第一声で、
「ねえ、カバンにあった台本見たんだけどさ、◯◯トンネルって行った?」
と聞いてきました。どうやら昨日の心霊スポットロケの台本を読んだようです。
「ああ、なんかそんな名前のトンネルやったような、なんで?」
「これ見て」
奥さんは自分の携帯の画面を僕に見せます。
その場所、◯◯トンネルというのは、幼女バラバラ殺人事件の遺体遺棄現場でした。
僕が怪談を話した場所のすぐ横の側溝に、女の子の手首が捨てられていたそうです。
全てが繋つながった。
そしてこの話にはまだ続きがあります。
大学病院で僕を担当してくれた医師は、その事件の検死に関わった先生でした。たまたま家の近くのクリニックに行って、そこから搬送された大学病院に、あの事件に関わる人が勤めていたことになります。そしてさらに、僕と一緒に収録前、トンネルの造花を見たMCの先輩芸人は、僕を追うかのように原因不明の奇病で入院されました。
そして、他の共演者も後日重大な病気が発覚したり、スタッフさんが不慮の事故にあったりと不吉な出来事が続きます。
これを全て心霊スポットのせいにするわけではありません。ただここまで色々起きたら……。
「もう心霊スポットは行かれへん」
そう思った僕は、以後、心霊スポットの仕事は完全NGにしたんです。
好井まさお(よしい・まさお)
1984年生まれ。大阪府出身。NSC東京校を卒業後、2007年に井下昌城(現・井下大活躍)とお笑いコンビ「井下好井」を結成。2022年12月31日に解散し、ピン芸人に。それ以前から俳優、怪談師としても活躍。YouTubeチャンネルは、ファッションに特化した『好井&カナメクト』、怖い話に特化した『好井まさおの怪談を浴びる会』などを運営。『好井まさおの怪談を浴びる会サロン』も開設。2025年2月にスタートした全国ツアー「劇場版 好井まさおの怪談を浴びる会」も盛況。
好井まさおの怪談を浴びる会 https://www.youtube.com/@yoshii-abirukai

好井まさおの怪談を浴びる会
定価 1,650円(税込)
KADOKAWA
» この書籍を購入する(Amazonへリンク)

2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部