この記事の連載

 芸人、俳優、怪談師、YouTuberなど、多彩な顔を持つ好井まさおさんが、自身のYouTubeチャンネルと同名の著書『好井まさおの怪談を浴びる会』(KADOKAWA)を上梓した。

 面白いのは、単に配信した怪談を書き起こしているのではく、芸人・好井まさおの類まれなる話芸をもって新たに“語り起こされて”いるところだ。

  今回、特別に著書の中から紹介するのは、怪現象が連発する現場での体験。後篇では、現場から戻ってからも次々と襲い掛かる恐怖と摩訶不思議をお伝えする。

〈前篇〉『「怪談を浴びる会」好井まさおの名作怪談を公開! 心霊スポットNGを決意した“絶対に行ってはいけなかったトンネル”』を読む


絶対に行ってはいけなかったトンネル〈後篇〉

 家に戻ったのが24時頃。当時はまだ子どももおらず、奥さんと2人暮らしでした。

 家に入る前に大量の塩を頭からかぶります。玄関の前は深夜でもわかるくらい白くなっていました。関係あらへん。

 我が家にはリビングと寝室があって、寝室の真ん中にベッドが置いてあります。部屋に入ると、奥さんはもう寝ていました。風邪やったらうつしたらまずいと思い、マスクをして、ダブルベッドに寝ている奥さんとは反対側に顔を向けて横になります。

 寝ようとしましたが、あきらかに体が熱い。のっそりと起き上がりフラフラしながらリビングにある体温計を取り出します。

 ピピピ、ピピピ。

 39度8分。人生最高体温へ到達。

 インフルエンザやん。

 そう思い、念のためマスクを二重にして、奥さんからなるべく離れてベッドの端っこで眠りにつきました。

 寝付いてどれぐらいやったんやろう。じんわり耳鳴りが始まりました。

 これはいつもの金縛りの合図。僕は「金縛り慣れ」しています。バスの中で寝てもうたし、レム睡眠とノンレム睡眠がごちゃっとなってんねや。そら金縛りになるわ。

 すごい冷静。怖くもなんともない。

 いつものクセで、金縛りの秒数を数えます。子どもの頃から、このクセは直りません。だいたい15秒から20秒。そんなもんで収まります。

 23、24……30……45……57、58、59、1分……90、91、92……ん? 今日は長いぞ。

 150、151、152……え、2分半?

 ここまで数えた時、不意に思いました。

 脳の病気なんちゃう?

 このまま死んでまう。

 急に不安になり、心臓がバクバクし出しました。その時、なんか音が聞こえるんです。

 ペタペタペタペタペタペタ……ペタペタペタペタペタペタペタ……

 ん? 小走り?

 ペタペタペタペタペタペタペタ……

 フローリングを小走りするような音が聞こえる。

 ペタペタペタペタペタペタペタ……

 裸足や。ちょっと湿った足がフローリングから離れる時の、「にちゃ」という音も混じっている感じ。

 ペタペタペタペタペタペタペタペタ……

 徐々に小さくなったり、大きくなったりを繰り返しながら、ずっと足音が聞こえる。

 ペタペタペタペタペタペタペタペタ……

 あれ? これ、ベッドの周り、誰か走ってない?

 とっさにうっすら目を開けてしまいます。

 ‼

 誰かいる……女の子?

 5歳くらいでしょうか? 女の子がベッドの周りを小走りしています。

 心霊スポットに行ったから、脳がこういうイメージを作り出してんねや。

 目を閉じよう。ん? あかん。目が閉じひん。やばい目が合う。

 このままやったら女の子と目が合ってまう。

 女の子は僕の視界にピタッと止まりました。

 そして、ゆっくりこちらを振り返ります。

2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部