「おはようございます!!!!」

黄色い男。
黄色い、ナイロン素材のパーカーを着た若い男でした。その男がキョロキョロ、キョロキョロとあたりを見回しています。
「なんなんやろ? あの人」
となんとなく見ていたら、男とバチンと目が合い、次の瞬間、
ダダダダダダと全速力で走って近づいて来ます。
思わずビクッと体がのけぞりました。
そして、男は僕の目の前で、
「おはようございます!!!!」
と大声で挨拶。
奇行すぎてびっくりしましたが、吉本の養成所も近かったので、とっさに「後輩かな?」と思い、「あ、おはようございます」と挨拶を返しました。
もう一言くらい話しかけようとした時には、男はプイッとそっぽ向いて、どこかに行ってしまいました。
「なんや、こいつ」
呆気にとられ、そして、同時に恐怖も感じ、急いでその場から離れようとトイレを済ませ、部屋に戻りました。
僕と入れ違いでトイレに行った先輩がしばらくして帰ってきて、怪訝(けげん)な顔をしながら聞いてきます。
「おい好井、変なやついなかった?」
すぐにわかりました。
「黄色いパーカーの子ですか?」
「そうだよ。朝っぱらからむちゃくちゃ大声で挨拶されて、挨拶返したら、すぐどっか行ったんだよ」
「あ、一緒ですわ。後輩じゃないですか?」
「いや、後輩にしてもな……。俺、ライブぐらいしか出てねえけど、よく俺のこと知ってたな」
言われてみたらそうやわ……。
そんなことを思いつつも、不審者? くらいの感じで大して気にもせず、布団に入って眠りました。
2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部