この記事の連載

家賃2万8000円の部屋で起きたこと

 着いたらまあ、家賃2万8000円で納得の家。長い平屋で、ガラガラと開ける引き戸の共同玄関、その脇に共同トイレ。同期の部屋は廊下の一番奥。湿気がひどく、入り口が引き戸になっている部屋でした。

 引き戸を開けて入ると、畳がありません。床にはプラスチックでできた網目状の、よくわからない何かが敷き詰められていました。思わず「きったないなああ……」と誰かが言います。部屋の隅にあるコンロや流しも汚い。

「逆に、これでよう2万8000円を払うな?」

 家に招き入れてもらってる立場の人間たちが口々に罵詈雑言(ばりぞうごん)を浴びせていました。

 そんな中、先輩の1人が、フォローに回り、

「まあ……みんなで楽しく飯食えたら場所はどこでもええやん」

 と気を遣って言います。

 いやこの言葉、一番失礼やろ。

 とはいえ、鍋が始まると先輩が言った通りで、呑み食いしながら芸の相談をしたり、

「どうやったら売れるんですかね?」

 なんて語り合ったり、今思えば、若い芸人たちが熱い青春をしていた楽しい夜でした。

 23時くらいから鍋を始めて、気づいた時にはもう朝4時。

 みんな次の日の仕事はあるわけもなく、

「全然泊まっていってもらってもいいですよ」

「じゃあ、もうここ泊まっていこうかな」

「俺もそうしよ」

 と、みんなで泊まることになりました。

 呑みすぎて膀胱パンパンの僕は、部屋を片付けて布団を敷くタイミングで、玄関横の共同トイレへ向かいました。

 廊下を歩いていく途中、違和感がありました。

 共同玄関の引き戸が、ちょうど人2人分ぐらい開いています。そして、そこから有名な商店街の通りが見えました。

「物騒やな、なんで開けっぱなしやねん」

 と思い、玄関を閉めに行こうとしたら、その通りに人が1人立っています。

2025.03.27(木)
文=好井まさお、CREA編集部