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「米国に拠点を移したい」エージェントに止められたワケ

内田 その祖父の祖先が三浦半島の出身で三浦姓なんです。最後の将軍徳川慶喜の教育係をしていた人がいるということはわかっているのですが、謎がありまして、母は子どもの頃に家系図を見たことがあるんですね。そこに「按針」の名があったので「この変な名前の人は誰?」と祖母に尋ねると、「内緒です」と言って押し入れにしまい込んでしまったというんですよ。

浅野 それは三浦に領地があった三浦按針、ウィアリム・アダムスですよ。

内田 『SHOGUN』の主人公のひとりですよね。ではもしや私にはイングランドの水先案内人の血が入っている?

浅野 也哉子さん、DNA検査に行きましょう。

内田 私も先祖捜しの旅をしなければなりませんね。12~13年前から浅野さんが次々にハリウッド映画にご出演になるのをすごいなあと思って見ていたのですが、今日お話を伺って驚きました。あの頃並行してお祖父様を探す旅をしていらっしゃったとは。

浅野 アメリカにいたからこそ情報にアクセスできたということもありますが、そもそも俳優の活動の場としてハリウッドを視野に入れたのは、自分にはアメリカ人の血が入っていることを意識していたからだと思うんです。いずれは行かなければならないとどこかで思っていた。

内田 この対談をお願いするとき、日本にいらっしゃらないかもしれないと思ったんですよ。

浅野 日本と行き来し続けているのは、『マイティ・ソー』への出演が叶ったとき、ロサンゼルスに引っ越すべきかエージェントに相談したところ「やめろ」と言われたんです。渡辺謙さんのようにアカデミー賞ノミネートという冠がないのだから、「彼は日本のスターだ」と売り出せるようになるまで日本で活躍し続けろと。だから、めちゃくちゃ日本で頑張ったんですよ。「なんだ、商業映画にも出るのか」と叩かれもしましたが。

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浅野忠信(あさの・ただのぶ)

1973年神奈川県生まれ。ドラマ『3年B組金八先生』(88)を経て、『バタアシ金魚』(90)でスクリーンデビュー。『モンゴル』(2007)が米アカデミー賞外国語映画賞ノミネート。『私の男』(14)でモスクワ国際映画祭最優秀男優賞受賞。カンヌ国際映画祭ある視点部門で『岸辺の旅』(15)が監督賞、『淵に立つ』(16)が審査員賞を受賞。ディズニープラス「スター」で配信中のドラマ『SHOGUN 将軍』が世界的なヒットになっている。

内田也哉子(うちだ・ややこ)

1976年東京都生まれ。エッセイ、翻訳、作詞、ナレーションのほか音楽ユニットsighboatでも活動。著書に『新装版ペーパームービー』『BROOCH』『9月1日 母からのバトン』『なんで家族を続けるの?』(中野信子との共著)など。Eテレ『no art,  no life』では語りを担当。本誌連載をまとめた『BLANK PAGE 空っぽを満たす旅』(文藝春秋)が現在9万部のベストセラーに。

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2025.01.17(金)
文=こみねあつこ
写真=平松市聖