「そんで、どうなの? プリセプター、大変?」

 お弁当を半分くらい食べてから、話をふってみる。

 すると遠野は箸をとめて「はあー」とわかりやすいため息をついた。

「正直、こんなに大変だと思わなかったです。想像以上です。やばいです」

 立て続けに言葉がこぼれ落ちてくる。もう遠野の中では満タンで、溢れる寸前だったのだろう。

「そっか。そうだよね。何が一番大変?」

「何が……何でしょうね。何もかもが今はもう嫌になっちゃって……プリセプターなんて引き受けなければ良かった、って思っちゃってます」

 かなり重症そうだ。私は、うんうんとうなずいて話を促す。

「一番は……北口とどう関わったらいいのかわからないってことですかね。ついイライラしちゃうんです。強い口調で怒っちゃう。それで北口を萎縮させちゃって、余計関係がうまくいかない……」

 遠野は、少し黙ってからお茶を一口飲んで「でも!」と大きな声を出した。

「新人って、あんなに勉強してこないもんですか?」

 話しながら怒りが再燃してきたらしい。

「北口は、あんまり勉強しない?」

「ぜんぜんしてないわけじゃないと思うんですけど、なんかズレてるんですよ。マイペースっていうか、のんびりしているところも私は待てなくてイライラしちゃうし……」

 あいづちを打つ。とにかく今は吐き出させよう。

「私、後輩たちから陰で“根拠の鬼”って呼ばれているらしいです」

 ボソボソと小さな声を出す。今度は落ち込みが顔を出したようだ。陰口が、本人にも伝わっていたらしい。

「鬼でもなんでもいいんです。だって、根拠って看護をするうえですごく大事なことじゃないですか。私が鬼って呼ばれたとしても、結果として患者さんに安全なケアができればそれでいいって思うし、北口もふくめて後輩たちみんなが成長してくれればいいって思ってるんですけど……それでも私、やっぱり怖いのかなって」

 箸を宙にとめたまま、遠野はうつむいた。

「そういえば、遠野が一年目のとき、浅桜っていたじゃん?」

2024.11.08(金)