ブランドイメージが変わるまで
――ここまで楽しく多彩な柄が増えたきっかけはどこにありましたか?
少し小難しい話になりますが、フェイラーというのはご存知の通り、「私の母や祖母が使っていた黒地に花柄のハンカチ」というイメージが強かった。この先長く続くブランドであるために、果たして本当にこのままでいいのだろうか?という健全な危機感が会社の中にありました。
そして比較的若い、新しいお客さまを増やしていかなければならないという課題認識のもと、リブランディングというキーワードが出てきたんです。
これまでにはないポップで可愛い柄やコラボ商品を発表することで「マイ・ファースト・フェイラー」を手にするお客様を増やし、まずは使っていただくことを意識した企画を始めました。
一概にリブランディングと言ってもそれは単なる商品の話ではなくて、売り場や売り方も然りです。新しいお客さまに出会うために、化粧品売り場に近い場所のようなフロアにも出店すべきではないのか? と考えたりもしました。
そういうアナログ的なマーケティングは決してここ1、2年の話ではなく、5年、6年ともう少し長い時間軸で種まきをしてきました。もちろんその中で色んなことがあり失敗もしましたが、結果的にはその積み重ねが今の状況を生んでいるのだと思います。
――そんな中、一昨年の2022年で日本上陸50周年を迎えたのですね。
はい。「情緒的価値」を大切にしたいと強調し始めた頃でした。フェイラーは耐久性も吸水性も良くて長持ちすると品質面でお褒めいただいているのですが、果たしてそれでいいのだろうか? こちらもある意味でまた危機感を抱き、自分たちを見直すタイミングだと思ったんです。
100年続くブランドだと想定すると、ちょうど折り返し地点の50周年。もう一度立ち止まって、この機能的価値に加えて情緒的価値もないと単に柄がかわいいというブームで終わってしまう。そこで生まれたのが「心はいつだって踊れる。」という言葉でした。
――「情緒的価値」とは具体的にどのようなことでしょうか。
ハンカチを見て触って生まれる情緒、そして感性が駆動する着火点を大切にするということ。例えば、どれだけインターネットやSNSの世界が発達しても、フェイラーの1番強い口コミというのはやはり、お母さんやおばあちゃんからなんです。お母さんの引き出しで見たことがあるとか、貸してもらったとか。フェイラーは決して世代が断絶されずに原体験というものがあるブランドで、そこはやはり大切にしていきたい。
卒業式でもらった、部署が変わった時に先輩からもらった、そしてただ単に手や汗を拭くものではなく、そこの裏側に情緒が宿るからきっと捨てられないし、その柄を見ると当時の自分を思い出すはず。ありがたいことにコレクターと呼ばれる方々も存在するのですが、それはハンカチを集めているのではなく、柄から想起される思い出をアーカイブしていくことになっているのだと感じます。
――SNSでフェイラーのファンが推し活のごとく、“マイフェイラー”をたくさん投稿していることも話題です。
黒地に花柄ではないフェイラーで1番最初に手応えがあった柄が『ハイジ』なのですが、お客様が8月12日をハイジの日という風に自発的に投稿してくださったのがきっかけだったと思います。
忘れもしない2017年。夏季休暇中にSNS上で発見したんです。その時は20件くらいでしたかね、私も持ってる! という風に次々と上げてくださっているのが嬉しくて。来年からは私たちも参加させていただいてもいいですか? とお客様にDMをお送りして、2018年からハッシュタグのキャンペーンを始めました。(マーケティング部シニアマネージャー吉野さん)
『ハイジ』は1999年に発売したロングセラーなのですが、やはりこういう可愛いものが好きな方が多いという気づきはありました。そこから少しずつ広げていき、今のようにクスッと笑える柄もリリースするようになったかなと思います。
今はそれぞれのお客様がお客様なりのコミュニケーションの手法でフェイラー愛を伝えてくださっている状況だと思います。そういう意味でSNSの力はすごいと感じますし、アナログ、デジタル共に、改めて我々もこのハンカチを"25cm×25cm”のメディアと見立てて、さまざまなコミュニケーションを図っていきたいと思っています。
――ポップアップやコラボアイテムも発表するたびにニュースになりますね。
ありがとうございます。でも、ポップアップをやる目的は、まだまだフェイラーを知らない方々がたくさんいるからなんですよ。まずは触っていただいて生まれる五感を大切にしているということもあります。
コラボは求めているものの根っこの価値観がフィットすると思う皆さまとご一緒させてもらっています。美術館やアート、ブランド、ありがたいことに色んな切り口が広がっています。
2024.10.02(水)
文=渡部かおり
撮影=榎本麻美