スペイン国王の鬱病を治したファリネッリの癒しの美声

今や世界を代表するオペラ歌手としての地位を確立したフィリップ・ジャルスキー。ヘンデル、ヴィヴァルディなど、バロック時代における膨大なレパートリーを誇る。(C) Marc Ribes

  「カストラート」とは、かつてヨーロッパに存在した男性の去勢歌手のことで、甲高い声を保つために変声期前に手術をし(多くは稼ぎを期待された貧しい家の子どもたち)、粗悪な手術のせいで亡くなってしまった哀れな少年も少なくなかったというわ。残酷な目に遭いながらも成功した一握りのカストラートは、優雅なスターとして神話や古代史の英雄的なキャラクターを演じていたのです。

 そんな時代のハイライト的なカリスマが、ジェラール・コルビオ監督の映画『カストラート』で有名になったイタリア人歌手ファリネッリ。彼は貴族出身で、声も容姿も人柄も素晴らしく、その声を愛したスペイン国王の前に招かれて歌い、おかげで王の鬱病が癒されたというエピソードも残っているわ。

 15歳の頃から並外れた美声とテクニックで周囲を驚かせていたというファリネッリには、鬼コーチがついていて、それがこのアルバムの曲を書いたニコラ・ポルポラという人物。完璧な技術と美声によって少年を「化け物のような完璧な歌手」に仕立てたポルポラは、プロデューサー的な手腕にも長け、弟子が最も魅惑的に輝くための音楽を作っていたのです。

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2014.04.08(火)