村上さんの文章を言葉に出せることが楽しい
――本当に読むことがお好きなんですね。
はい。本当に楽しいお仕事でした。毎日子どもに読み聞かせもしているので、私にとっては「本を声に出して読む」というのは、ごく日常なんです。だから読んでいることが苦しくなったり、疲れたから気分転換したいと思うこともなく、「楽しいな」と思っていたら読み終わってしまった、という感じだったのかもしれません。
――村上春樹さんの小説を読む難しさはありましたか?
村上さんの文章は一文が長いものも多く、なるべく句読点のところで区切って読みたいと思っても、句読点までが長すぎてうまくできない、などの難しさはありました。ですから、まず一度読んでみて、句読点で区切るのが難しいと思ったら「このあたりで息継ぎしよう」というのを自分なりにチェックしてから現場に入っていました。
それでも、私は村上さんの丁寧な日本語や、いろんな言葉を重ねて違う表現で説明する感じが好きなので、難しさを感じるというよりは、それを言葉に出せることが楽しい、という感覚のほうが強かったです。普段あまり耳にしないようなカタカナが入っているのも、「楽しい」と思いながら読んでいました。
実は私、村上さんの作品を読んだことがなかったんです。
今回の『スプートニクの恋人』が人生で初めて読んだ村上春樹作品なのですが、この年齢で、この作品に出会えたのは、まさにベストなタイミングだったと思います。他の作品もこれから時間をかけて触れていきたいなと、強く感じました。
――家で朗読の練習などはされましたか?
家では軽く読み、本番で『スプートニクの恋人』の世界を楽しみながらしっかり読み進める、という感じで進めていきました。
家で読んでいるときは、「次のページ、進みたくない。だって終わっちゃうもん、この時間が…!」と、最高の幸せを味わえて、それもすごく楽しかったのですが、本番で読むと、よりわくわく感が増したので面白かったです。「音として耳に入ってくると、こんなに世界が広がるんだな」と、自分でも発見の連続でした。
2024.09.06(金)
文=相澤洋美
写真=三宅史郎
スタイリスト=藤井牧子
ヘアメイク=中野明海(nakano akemi)