父親を亡くしたばかりの10歳の章子に届いた手紙、その差出人は20年後の30歳になった未来の自分だという……。Audibleで湊かなえさんの『未来』を朗読したのんさん。ミステリの複雑さや、細やかな人物描写を朗読する難しさにどう取り組んだのか、湊さんも興味津々です。Audibleの収録裏話についても語っていただきました。(全2回の2回目。前編を読む)
湊かなえさん(以下、湊) 『未来』をAudibleで朗読していただくにあたり、難しかった点などありますか?
のんさん(以下、のん) 冒頭に違う章の顛末が含まれていたり、後から出てくるシーンを予想させる場面がちりばめられていたりして、どの言葉を立てるか、そして、どの部分で予感を煽るのか、などをチェックしていくのが大変でした。
もうずいぶん前になりますが、はじめて『未来』を読んだときは、湊先生の小説として、ただその世界に没頭して読んでいたんですよね。それが、今回あらためて朗読を意識して再読したら、ここも、えっ、これもそうだったのか……! といった発見がたくさんありました。伏線をすべて見つけるのは大変ではありましたが、楽しい時間でもありました。
湊 冒頭の朗読を聴いたときに、この作品の主要人物である章子たちが背負ってきたものがすべて声に込められている感じがして、作品の世界にすっと入っていけたことに感動しました。それに、自分が書いたので内容はわかっているはずなのに、のんさんの声で早く続きが知りたいと思ってしまいました。
本って、この人物に何があったんだろうとか、これから何が起こるんだろうって読者に思っていただく最初のつかみが肝心なのですが、のんさんの朗読にも、冒頭からグッと聴き手を引き込む力があり、感動しました。 「何があってこの子たちは今、バスに乗るんだろう」「どうして今ここにあるんだろう」って、みんなをそわそわドキドキさせるというか……。「ただ友達と待ち合わせて楽しいところに行くのではなさそう。でも、ちゃんとこの子たちが目的地に行けますように」と思わせてしまう迫力があって。あの場面は、どんなふうに収録されたのですか?
のん 最初は頭から順番に読み進めていたのですが、冒頭の序章は、そこにつながる場面まで読み進んだあと、はじめに戻って再び序章を読み、そのつながりでまた本章に戻る……という形で、何度か往復していちばんよく収録できたものを採用していただきました。
2023.11.17(金)
文=相澤洋美
撮影=深野未希