この記事の連載

 父親を亡くしたばかりの10歳の章子(あきこ)に届いた手紙、その差出人は20年後の30歳になった未来の自分だという……。貧困や虐待、ネグレクトなど、家や学校で辛い思いをしている子どもの現実を描いた湊かなえさんのミステリー『未来』。俳優ののんさんは、『未来』をAudibleで朗読しました。意外なことに、湊さんとのんさんは、今回が初対面だそう。お互いの印象や、作品のAudible化について語りました。(全2回の前編。後編を読む)


のんさん(以下、のん) はじめまして、のんです。今日は湊先生にお会いできると、とても楽しみに来ました。

湊かなえさん(以下、湊) はじめまして。私もすごく楽しみでした。実は今日、のんさんにお土産を持ってきているので、お渡ししてもいいでしょうか。

のん えっ……! ありがとうございます。私は何も持ってきていなくてすみません……。

 いえいえいえ! のんさんがAudibleで『未来』の朗読をしてくださっただけで嬉しいのに、今日こうしてお会いできるというので、ご挨拶代わりにと思いまして、いろいろ詰め合わせてきました。私のデビュー作の『告白』をイメージしたオリジナルコーヒーの「『告白』ブレンド」や、のんさんのご出身地の兵庫県の淡路島のおいしいポン酢など、いろいろお持ちしましたので、後ほどご覧ください。

のん めちゃくちゃ嬉しいです。ありがとうございます。 今回のお仕事は、「湊先生のご指名だから」と最初にお聞きしてたんですけど、正直Audibleの方が気を使ってそう言ってくれてるんだろうと、半信半疑だったんですよ。でも今日湊先生から直にお聞きできて、「あっ、本当だったんだ」って思いました。すごく嬉しいです。

 『未来』という作品は、子どもの貧困問題や、いじめ、ネグレクトなど大きな社会課題がテーマです。この作品世界を自分の朗読で作り上げるのはすごく大変だろうけれど、やりがいも大きいですし、他の人がこのお仕事をすることになったら悔しいと思って、ぜひやらせてくださいとお答えしました。実写作品では私にオファーが来ないだろう作品や役柄だったので、朗読という形で挑戦できてよかったです。  

 それをお聞きして、ますます、のんさんにお受けいただけてよかったと思いました。言うなれば、のんさんに朗読してもらうことは「お願い」ではなく「切望」でしたから。

のん 「切望」……! 

2023.11.17(金)
文=相澤洋美
撮影=深野未希