小説『愛されてんだと自覚しな』の舞台は、神戸の六甲山系の山にある金星台(きんせいだい)や城崎温泉。舞台となる土地を選んだ理由や、物語のキーとなる和綴じ本「徒名草文通録(あだなぐさぶんつうろく)」について作者の河野裕さんに伺いました。
まず舞台を神戸に設定した
――小説『愛されてんだと自覚しな』の舞台は神戸です。その理由を教えてください。
河野 今作は日本の神様が登場するのですが、奈良時代の初期に編纂された風土記『播磨国風土記』によれば、神戸には伊和大神という神様がいました。この神様を登場人物として描きたいなと思い、播磨の話にしようと決めました。私が兵庫県在住で取材に便利ということもありますが(笑)。だから、神戸を選んだというより、むしろ神戸に決めたことが作品に色々な影響を与えた感じです。
――神戸にはどんな魅力がありますか?
河野 面白い街ですよね。1868年に神戸港が開港したのをきっかけに外国人居留地が設けられるなど、西洋の文化が入ってきたタイミングが早い街です。その分、和と洋の混じり方が独特で。老舗の洋食屋さんに行くと、2階が座敷席で、西洋のランチ定食に味噌汁が付いたりするんです。西洋文化とそれまであった文化が融合した度合いが高い結果だと思います。
例えばイラストで街の魅力を伝えようとしたら、神戸の西洋っぽい街並みを和風のスタイルで描くと雰囲気が合う。そんなイメージが私の中にあるんです。一方、今作で舞台にしているわけではありませんが、京都だったら浮世絵のように和風で描くのではなく、和風の街並みを洋風タッチで描いた方が、西洋的なおしゃれさを感じさせる京都らしいなと。
神戸のその温度感は個人的に面白いと思っていて、文体でも意識しましたね。杏のしゃべり方も神戸のイメージに引っ張られていると思います。
――それが表れている部分はありますか?
河野 プロローグで「白ワインと醤油のマリアージュに舌鼓を打ちながら」と書いている部分ですね。千年分の記憶を持っている杏と23歳の杏が共存してほしかったので、古い言葉だけではなく新しい言葉も知っているというバランスを意識しました。私の中での神戸のイメージとうまくマッチできたかなと思います。
――姫路おでんや京都市役所の漆塗りエレベータなど、関西文化の風刺に笑ってしまいました。河野さんが関西で暮らしている中で感じる部分が表れたのでしょうか。
2023.08.01(火)
文=ゆきどっぐ
撮影=鈴木七絵