半年に一度、妻にブレストに付き合ってもらう
河野 関西で暮らしていると、姫路とか京都のイメージがわりと明確に感じられて面白いんです。今作では浮島龍之介(うきしまりゅうのすけ)という熱血タイプのキャラクターが登場するんですが、そのままだと作品に馴染まない気がして、彼のこだわりを鼻で笑える感じにしようと思いました。それで彼の出身地を安芸郡(あきぐん)ということにして、姫路に嫉妬させることにした。神戸への嫉妬はよくありますが、姫路への嫉妬ってちょっと面白いんですよ。
個人的には姫路は歴史があって、いいものがたくさんある街だと思っています。でも、姫路の人って文化面で突出していると認めたがらない印象があって。「いやいや姫路なんて」と謙遜しつつ、でも姫路城には誇りを持っているから、ほかのお城を見た時に「え? お城ってこんなものなの?」と多少馬鹿にしている気もする。そういうニュアンスは取り入れましたね。
――物語のキーとなる和綴じ本「徒名草文通録」は、奥様の発案だそうですね。
河野 そうですね。物語のクライマックスにプレゼントが必要だと思ったんですが、なかなか決まらなくて。そういう時は、あえて説明せずに妻にブレストに付き合ってもらうんです。
確か、車に乗っている時の時間潰しだったかな。「とにかく長い時間を生きている2人がいて、どちらかから贈り物をするとしたら、どんなものが感動すると思う?」って聞いたんです。妻はいくつかアイデアを出してくれたんですけど、私だけがどういう成り立ちか分かって質問しているから、「それは違う、それは違う」ってずっと返答していて。
――厳しいブレストですね(笑)。
河野 我が家では半年に1回くらい発生するイベントで、妻もはっきり「これはブレストで、アイデアを求めているんだな」と感じていると思います。だから色々答えてくれて。それで今回出てきたのが「流行ったおもちゃを毎年1個ずつコレクションして、50年分もらったら全部に思い出があっていいかな」というものなんです。それが一番しっくりきました。
――完成した本は、奥様も読まれるんですか?
河野 読んでいないのではないでしょうか。少なくとも、感想を聞いたことはありません。ブレストの結果が使われているかどうかも知らないと思います(笑)。
2023.08.01(火)
文=ゆきどっぐ
撮影=鈴木七絵