この記事の連載

 Amazonオーディブル(以下、Audible)で村上春樹さんの『スプートニクの恋人』を朗読した俳優の宮﨑あおいさん。村上春樹さんの作品を朗読する面白さと難しさについてお聞きしました。(全2回の後篇。前篇を読む


「とにかく楽しかったです」

――宮﨑さんはナレーションのお仕事も多くされていますが、ナレーションとAudibleの朗読はどう違いましたか?

 ナレーションはよりフラットで、Audibleはそれより少しお芝居に近いイメージだなと思いました。

 ナレーションの場合は、映像の邪魔をしないように、よりフラットに読むことを心がけています。でもAudibleで小説を朗読する場合、全てフラットに読んでしまうと、聴いている方に登場人物の違いや場面の情報が届かないように思ったので、キャラクターごとに声色を変えたりしました。その点は少しお芝居に近いと感じたところです。

 ただ、あまり極端に差をつけすぎたり、感情を乗せすぎたりすると、聴いている方の負担になってしまうという難しさがあって。少しだけ語尾を変える、話すスピードを変えるなど、ちょっとした違いでキャラクターの違いを出さなくてはいけないところは、難しかったです。

――1冊同じテンションで読むのも難しそうですね。

 毎回スタジオに入ると、前回収録した部分を流してくださっていたので、「ああ、こんなテンションで朗読していたな」と思い出して収録に挑むことができました。それでもいきなり新しいところに入ると少しトーンが変わってしまうので、重複になってもいいから、収録箇所の2〜3行前から声に出して読み始めるというやり方で進めていきました。

 お芝居でも、少し前のシーンから返して演じることがあります。やっていることは違いますが、そういう点でもお芝居と同じような感覚でできたところもあったように思います。

――1冊読み切るには相当お時間もかかったのではないでしょうか。

 今回は1週間に2日ずつ収録をして、合計6日間27時間くらいで読み終わりました。

 収録中は「休憩はなくてもいいです」というくらい、ひたすら読んでいましたが、とにかく楽しかったです。「今日はこれで終わりです」と言われても、「えっ、もう少し読みたいです」という気持ちでした。

2024.09.06(金)
文=相澤洋美
写真=三宅史郎
スタイリスト=藤井牧子
ヘアメイク=中野明海(nakano akemi)