「本当にごめんよ。来たからには、人一倍頑張るからさ」

「じゃあ、そうしてもらおうかね」

 笑い声が明るくなったところで、「雪哉ァ!」と怒鳴る声がその場に響いた。

「お前、遅い」

 視線を転じれば、子ども達の集団の中に、兄と弟の姿を見つけた。

 兄は、十五になった雪哉よりもひとつばかり年長なだけであったが、小柄な自分よりも頭一つぶん上背があった。頭髪には癖がなく、比較的端整な顔立ちをしている。その隣を歩く末弟も兄とよく似た風貌をしているので、つくづく、血のつながりの分かりやすい二人だと雪哉は思う。

 男の中では兄が一番年長なせいか、どうやら子守りを押し付けられたようだ。目を三角につり上げてはいるものの、背中に赤ん坊を背負い、両手に幼児を引き連れたその姿に、威厳は微塵も感じられなかった。

「そう言うくらいなら、起こしてくれりゃ良かったのに」

 兄に駆け寄り、赤ん坊を引き受けながら言うと、馬鹿にしたように鼻を鳴らされる。

「まさか、こんな時間まで寝ているとは夢にも思わなかったんでな。大体、朝飯食ってから寝る奴があるか」

「言っておくけど、俺は一応声をかけたからね。それでも起きなかった、雪哉兄が悪いんだぜ」

 澄まして言ったのは、チー坊こと弟の雪雉(ゆきち)だ。その背中には小さめながら、たっぷりと青梅の入った籠が担がれている。

 雪哉は苦々しく呻いた。

「ああもう、俺が悪かったよ」

「分かったのなら無駄口叩かず、きりきり働くんだな」

 兄に嫌みを言われながら、この辺りで一番広い水場へと向かう。

 次の作業に移るのは午後からという話になり、昼飯を作りに行った女達が、小さな子ども達を引き取って行った。食事が出来るまでの間、手持ち無沙汰になってしまった郷長家の三人兄弟は、一足先に梅の実を洗う事にして、柿の木陰を選んで座った。

 まだ蚊も出ていないし、爽やかな初夏の風が、汗ばんだ額を撫でて行くのが気持ち良い。

 梅の実に当たって弾けた水飛沫が、木漏れ日を受けてきらきらと光っている。

2024.07.27(土)