日光を透かした緑が美しい枝葉の下で、三兄弟は無心に手を動かし続けた。

「しかし、兄上がこんな時間に雑用とは珍しい。父上の手伝いはどうしたんだ?」

 弟二人とは異なり、いずれ郷長の跡目を継ぐ長男の雪馬(ゆきま)は、いつもなら父の手伝いで表に詰めている時分である。

 雪馬は笊に載せた梅を転がしながら「それがな」と変な顔になった。

「街道沿いで問題があったとかで、父上が出て行ってしまわれたのだ」

 郷長がいなくても支障のない雑務は、郷吏が引き受けてくれたそうだ。おかげで、雪馬にはやる事がなくなってしまったのだと言う。

「有り体に言えば、邪魔だと言って追い出された。父上が帰って来るまでは、こっちの手伝いでもしておこうかと思ってな」

「それは見上げた心がけだね。今年の梅は量が多かったみたいだし」

 そう言った雪哉の横で、目を瞬かせた雪雉が、不意に梅の実をひとつ、つまみ上げて見せた。

「確かに、数は多いかもしれないけどさ。なんか、一個一個が小さいと思わない?」

 言われてみれば、収穫した青梅は数こそ多かったが、実そのものは小ぶりである。以前は、もっとずっと大きく、一本の木から採れる数も多かったのにと、収穫の最中で話題になったらしい。

「梅だけじゃなくて、野菜とかも、最近はあんまり出来が良くないんだって。雪哉兄は、中央でそういう話を聞かなかった?」

 雪哉はつい二月前まで、中央で宮仕えをしていた身である。

 宮廷では地方の特産品の中でも、上等なものしか使われないから、実体験としてそれを感じた事はほとんどない。だが、作物の不作については、耳に胼胝が出来るほど聞いた覚えがあった。

「ああ……。米の出来が悪いってのは、よく言われていたよ」

「やっぱりそうなんだ」

 南の方じゃ大水もあったって言うし、嫌だねえと首を振る弟の言葉は、恐らくは女達の受け売りだ。大人ぶっている弟に曖昧な笑みを返して、雪哉は洗い終えた青梅を笊から籠へと移した。

2024.07.27(土)