街道沿いの宿場は、街道を歩く者のための宿屋であると同時に、馬を休ませるための休憩所でもある。大きな市が立つのもこの宿場町がほとんどで、余所から来た商人や旅人は、ここで地方の特産物を仕入れたりするのだ。

 若宮と雪哉は仙人蓋が辿った経路を探るべく、まずは田間利(たまり)という名の宿場町へと向かった。

 今朝方、夜明けと同時に帰って来た郷吏からもたらされた情報によって、あの不審者の身元は既に割れていた。郷長屋敷と、田間利のちょうど中間地点の村に住んでいたその男は、もともとは猟で生計を立てている、独り者だったらしい。

 山で狩って来た獣を売りに、一昨日の朝、宿場に出て来た事は村民の話から分かっていた。男が田間利で仙人蓋を手に入れたのは、ほぼ間違いない。別段、素行が悪いというわけでもなかったので、村の者は男の凶行を聞き、とても驚いていたという。

 結局男は、雪哉と若宮が郷長屋敷を出る時になっても、興奮状態を脱する事はなく、人形(じんけい)にも戻れないまま捕縛されていた。解毒の方法が分からない限り、一生あのままなのかと思えば、昨日の行為に対する恐怖よりも、男に対する憐れみが勝った。

 何としても、これ以上の被害は阻止しなければならない。

 だが若宮は、なぜか一息に田間利に向かおうとはしなかった。通りがかった村の全てで、ここ最近何か変わった事はなかったかに始まり、村に立ち寄った旅人の様子、村で取引されたもの、最近の村人の体調まで、事細かに聞いて回ったのだ。しつこく質問する余所者を訝しむ者もいたが、雪哉が郷長の次男坊だと分かるや否や、その警戒もあっさりと解かれた。

 そこで雪哉にもようやく、若宮が自分を連れて来た理由に合点がいったのである。

「基本的に、地方の者は中央から来た宮烏に当たりがきついからな。手っ取り早いのは、地元の協力者を得る方法だろう」

 お前がいてくれて良かったよと悪びれずに言う若宮に、雪哉はこめかみを揉んだ。

2024.07.27(土)