似合わない編笠を被り、簡素な羽衣に山賊まがいの大刀を帯びている若宮の姿は、いかにも旅慣れた者の風情である。

 幼少の頃から一年ほど前まで、若宮は外界に遊学していたと聞いている。この年になるまで外界に出ており、山内に帰って来てからは中央から出ていないはずの若宮が、どうしてこんなに地方巡りに慣れた様子なのだろうか。

「時間があれば、北領なら酒を一緒に飲むのも一つの手だな。東領なら笛を吹くし、南領なら中央の政情に詳しいとほのめかせば、むこうから歓待してくれる。西領は話を合わせるのが難しいが、基本的に衣と住まいを褒めておけば問題はない」

 ――あっけらかんと言う若宮に、雪哉はあえて考えるのを止めた。

 大した情報も得られぬまま、二人は田間利へとやって来た。

 田間利は、垂氷郷において最も大きな宿場である。とはいえ、垂氷郷そのものが北領の中でも辺境とされるような田舎だから、その規模も大したものではない。中央のような店構えの商店はなく、あるのは旅籠と、簡単な飲食の出来る屋台ばかりだ。

 市も立っていないこの時分、田間利は閑散としていて、あまり活気があるとは言えない様子だった。そんな中、若宮と雪哉は、宿場の顔役が経営する一番大きな宿屋へと向かった。宿はすでに郷長の派遣した郷吏達の拠点となっており、大々的な聞き込みをしていたので、簡単な情報交換を行おうと思ったのだ。

 宿屋に顔を見せた二人を、郷吏達は快く出迎えた。郷長から墨丸に協力するようにという通達が来ていた事もあり、自分達が調べて手に入れた情報を、惜しまずに教えてくれたのである。

 郷吏は、若宮と雪哉に茶菓子を出しながら、仙人蓋をこの地にもたらした者の目星について語った。

「商人ですか」

「ええ。話を聞く限り、街道沿いに商売をして回っている、行商人じゃないかと思っとります。地元の八咫烏ではないのは確かかと」

 仙人蓋の犠牲となったあの男は、獣の皮や肉を直接客に売るのではなく、特定の業者にまとめて買い取ってもらっていたらしい。そこで金を得ると、毎回、宿場に併設した屋台に入り、他の地域から来た者と酒を飲むのが常だったのだ。

2024.07.27(土)