多士済々のスタッフたち

 今回、丸善津田沼店を取材させていただいたのは、一冊のフリーペーパーを東京の書店で手に入れたのがきっかけだった。

 そのフリーペーパー『晴読雨読』(「はれどく」と読み、晴れても雨でも本を読む、明るい希望に満ちたタイトルが好きだ)は、フリーペーパーとしては異例のボリュームで、一目見て、その表紙イラストに惹かれた。ファンタジックなモチーフを繊細に緻密に表現したイラストは、ファンタジー小説の中のようだ。そのイラストが丸善津田沼店の書店員、村上由夏さんの手になるものと聞いて、お目にかかりたくなったのだ(フリーペーパーにつられるパターンは、第10回のTSUTAYA寝屋川駅前店以来、2度目の書店フリペファン)。

『晴読雨読』は、村上さんの上司に当たる書店員Sさんが発起人となり、村上さんが表紙と編集を担当。丸善、紀伊國屋書店、三省堂書店、TSUTAYAといった大手から、山下書店(東京・千葉)、明林堂書店(大分)、成田本店(青森)、七五書店(愛知)といった地域の本屋さんまで、地域もチェーンも超えた書店員さんが参加するフリーペーパーだ。この連載で過去に登場いただいた方にも執筆者がいる。年4回の季刊発行、季節にマッチした特集、気持ちのこもった選書、楽しんで作っていることが伝わる文章が素敵だ。手間をかけて、きちんと作っている感じがいい。

 細密なイラストは、原画は手描きだが、パソコンに取り込んでフルカラーで制作されている。書店店頭では、ほとんどの場合、モノクロコピーのものが配られているのだが、『晴読雨読』のブログ(外部サイト)では、カラー版も見ることができる(カラーコピー代が高いのであまり作られておらず、なかなかお目にかかれないレアもの)。

『晴読雨読』と書いて「はれどく」と読む。カラーで見たいイラストのクオリティ。

 文芸の棚のそばに『晴読雨読』コーナーがあって、バックナンバーを含めての配布とともに、最新号で紹介された本を陳列していた。一緒に置かれた、丸善津田沼店独自の月刊のフリーペーパー『読書日和』もかなりの充実っぷりだし、他店、他チェーンのフリペも配布している。

「ちょいゲラ」という工夫も面白い。出版社は、自社の本をたくさん仕入れてもらおうと、発売前に「ゲラ」という試し刷りを書店員さんに読んでもらうことがある。丸善津田沼店では、本が発売されたらそのゲラの冒頭数ページを冊子にして配布している。わざわざ冊子にせず立ち読みしてもらえればよいのだが、その場で読んでもらうには気恥ずかしさもある。それよりも、気軽に持ち帰ってもらって、読んで気に入ったらきっと買ってくれるというもくろみだ。POPに添えられたゆるいイラスト(村上さん以外にもイラストの描き手がいるようだ)、コーナーづくりでの小物の活用など、細かいところでもそれぞれスタッフが個性を発揮しながら、みんなで売り場を作っている感じがいい。

左:『はれどく』や『読書日和』の他、川崎や名古屋の書店のフリペも。
右:ちょいゲラコーナー、『おい! 山田』のイラストは別の書店員さんによる。

 学生時代からイラストを描いていたという村上さんは、本を手軽に手に取れる「絵」として考えることがあるという。確かに、絵を買うのにはちょっと抵抗があっても、本なら気軽に買え、室内にディスプレイもできる。

 時には出版社から頼まれて絵を描くこともあり、取材時も春の辞書フェアのパネルとして店内に飾られていた。どどーんと積んだ辞書も迫力だが、村上さんのイラストも躍動感があってすばらしい。そんな村上さんの絵がただで手に入る、『晴読雨読(はれどく)』、第5号の配布がそろそろ始まっているらしい。もしも、カラー版があったら即ゲットだ。

辞典フェアのパネルは村上さんのイラスト。関東地方の本屋さんの辞典売り場で見られるかも。
村上由夏さん、『きみが心に棲みついた』(1~3巻)とともに。

【CREA WEB読者にオススメ】
 コミックスもイラストレーター目線で見てしまうことが多く、絵では井上雄彦さんや羽海野チカさんが大好きな村上由夏さんのオススメ本は、天堂きりんさんのコミックス『きみが心に棲みついた』(講談社)。この作品は、仕事でもプライベートでもうまく立ち回れない主人公が、自分を追い込み、居場所をなくしていく。かわいいイラスト調の絵に比べて、人間関係がリアルで中身はかなり重いが、次どうなっちゃうの、というハラハラドキドキ感をぜひ味わってほしいとのこと。うーむ、怖いのかなあ、怖いのが苦手な筆者的には、読むかどうか悩み中……。

丸善津田沼店
所在地  千葉県習志野市谷津7-7-1ブロックB棟2・3階
営業時間  10:00~21:00
URL http://www.junkudo.co.jp/mj/store/store_detail.php?store_id=12

小寺 律 (こでら りつ)
本と本屋さんと、お茶とお菓子(時々手作り)を愛する東京在住の会社員。天気がいい週末には自転車で本屋さん巡りをするのが趣味といえば趣味。読書は雑読派、好きな作家は、小川洋子さん、宮下奈都さん。

 

Column

週末の旅は本屋さん

新幹線や飛行機に乗らなくても、いとも簡単に未知のワンダーランドへと飛んでいける場所がある。それは書店。そこでは、素晴らしい知的興奮に満ちた体験があなたを待つ。さすらいの書店マニア・小寺律さんが、百花繚乱の個性を放つ注目の本屋さんへとナビゲートします!

 

2014.03.15(土)
文・撮影=小寺律