「中身、お代りしましょうか?」
「……中身って?」
「ああ、焼酎のこと」
居酒屋用語ではホッピーを「外」、焼酎を「中」という。
「もらいます」
秋穂はショットグラスにキンミヤ焼酎を注ぎ、カウンターに置いた。仁は焼酎をジョッキに空け、瓶に残ったホッピーを注ぐと、美味そうに一口飲んだ。
秋穂は次の注文に取りかかった。トマトを一個スライスして皿に並べ、茹でておいた鶏モモ肉を一枚冷蔵庫から出し、食べやすい大きさに切った。茹で鶏をトマトの上に載せ、刻みネギを散らしたら、醤油と砂糖、酢、ゴマ油、生姜の絞り汁を混ぜて水で薄め、上からかけて出来上がり。
鶏モモ肉は常時茹でて保存してあるので、これも作り置き料理になるだろう。何しろ一人でやっているので、煮込み以外にはあまり手間暇をかけたくない。それに、注文を受けたらすぐに出せるのも大切だ。お客さんが求めるのは酒の〝当て〟で、じっくり料理を楽しむような店ではないのだから。
「香菜、載せて大丈夫?」
「はい、大好きです」
お客さんの大半は香菜が苦手なので、珍しい返事に嬉しくなった。お客さんに人気の無い香菜を店に置いているのは、秋穂が好物だからだ。
仁はもりもりと茹で鶏を食べ、ホッピーのジョッキを傾けた。
「これも美味いですね。中華の前菜に出てくるやつだ」
「そうそう。茹でただけだけど、たっぷり日本酒入れてるから、しっとりしてるでしょ」
秋穂は調子に乗って自画自賛した。そして仁の旺盛な食欲に感じて、もう一声かけてみた。
「よろしかったら、海老とブロッコリーのガーリック炒めも食べてみます? ビタミンの補給に」
仁は茹で鶏を頬張ったまま頷いた。
秋穂は冷蔵庫を開け、茹でたブロッコリーと海老の入った容器を取り出した。フライパンにオリーブオイルとガーリックの粉末を入れて弱火に掛け、香りが立ったらブロッコリーを入れて香ばしく焼く。そして海老とミニトマトを追加し、塩胡椒で味を調えて、全体に温まったら出来上がり。
2024.06.12(水)