◆『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』の橋爪 功
自由すぎてキュート! な橋爪 功は格別
高橋一生さん(以下敬称略)が、色々とこじらせている40代の花火師・望月星太郎を演じ、幽霊となって星太郎の前に現れる父親・望月 航を、ベテラン中のベテラン、橋爪 功さんが演じる『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の憂鬱』。
2023年に放送されたこのドラマ。ふたり+同居することになる水森ひかり(本田 翼)の3人の息の合ったセリフの応酬が楽しく、ちょっと変わったホームドラマとして大人気となり、今期『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』となってカムバック。待望のシーズン2が始まりました。
このドラマの舞台は、とある山間で代々営まれてきた、望月煙火店という花火師の家。星太郎はシーズン1のしょっぱなから引きこもり気味なので、物語は基本、彼らの住む家(がおよそ7割くらい)と花火を作る工場、あとは近所の神社、時々花火を打ち上げる場所のみで話が進みます(母親のからむエピソードの時だけ遠出することもありました)。
派手な殺人事件や裁判や会社の買収うんぬんといったことは何も起こらない。家族と、同居している訳ありっぽい女子との会話劇だけ。今シーズンではそこにさらに、花火師として弟子入りを志願してきた野口ふみか(宮本茉由)が加わり4人になったけれど、舞台が星太郎の半径数キロメートル圏内ということは変わりません。
じゃあなぜこんなに面白いのか、といえば、やはり、高橋一生と橋爪 功の演技力がすごすぎるから(本田 翼も、他では見ないくらい自然体で良い演技を見せています)!
元々互いをリスペクトし合い、「ふたりで一緒にドラマをやりたい」という思いが実現したドラマだということですが、家族だからこそなってしまうぞんざいな口調や、家族だからこそいまひとつハッキリ言えないもんもんとした感情などの表現が、ふたりともに上手すぎて、本当の親子に見えます。
記者会見でも互いに言いたい放題に見えるふたりのやり取りが、“親子げんか”と言われていました。
そしてこのドラマでの橋爪さんの自由度、キュートさが突き抜けていて楽しい! そもそも橋爪さんは大ベテランの俳優で、主演した作品も膨大。筆者が何か言えるような方ではないのですが、それでも今回紹介したかったのは、この作品に、彼の軽やかな魅力が凝縮されていると思うからです。
なにしろ幽霊ですから、体を大きくしたり小さくしたり、出るのも消えるのも思いのまま。基本は星太郎をからかい、好きなことだけ言って消えていくようでいて、時折切なさを感じさせたりもするし、星太郎の耳に痛いことを言ったりもするのですが、それがまた説得力がある。とにかく画面のどこかにいるだけでなんとなくおかしい。
第3話の、事務所の引き戸のガラスになっている部分の後ろに立ち、木枠にぴったり収まって、まるで遺影の状態で星太郎たちの話を聞いている姿には爆笑しました。
撮影中のひとコマを紹介している公式Xでも、「(この後)消えちゃったらどう? 消えたあとチョウチョ(になる)とかさ、蛾とかさ」と、監督に提案している様子が見られましたが、幽霊だからこその自由なふるまいは、橋爪さんの提案がかなり入っていると見受けられます。
ふみかを演じる宮本茉由は幽霊が見えない設定なのに、一緒にいる場面ではどうしても橋爪さんに視線をやってしまうらしく、監督に「お父さんを絶対見ないでね」と注意されていました。でもあんなに面白い人が同じ場所にいたら、つい見ちゃうのはよくわかります。
近年橋爪さんは、総理大臣をはじめとする政府の重鎮役や、軍や警察の重鎮、銀行の頭取、裏社会の元締め(現在話題のNetflix製作『シティーハンター』でも車椅子で登場!)などなど、とにかくラスボス的な位置づけの役、特に敵役をスパイス的に演じていることが多く、それらももちろん凄みがあって憎々しくて素晴らしいのですが、市井に暮らす普通のおじさんの面白さや悲しみを表現していても、見入ってしまいます。
ほとんど何も考えていない……かのように見せる技術、他では見られない橋爪さんの軽やかな演技を堪能できるのがこのドラマなのです。そんな橋爪さんをどうしても知ってほしくて、このコーナーの最年長になりましたが、今回ご紹介しました。
物語は中盤。一時期消えていたのに、また現れるようになった幽霊の父の登場に一抹の不安を感じながら、ふみかまで同居するかもという事態に星太郎が必死で抵抗しているところ。橋爪さん演じる父親は幽霊だから、いつかはいなくなるのかもしれないけれど、消えないでほしい、そのままずっと星太郎と口げんかしているのを見ていたい。そんな風に思わせるキュートな幽霊をお見逃しなく!
『6秒間の軌跡~花火師・望月星太郎の2番目の憂鬱』
毎週土曜23時30分放送(テレビ朝日)
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2024.05.13(月)
文=斎藤真知子