「しかしよりにもよって、今年いらっしゃらなくても良いのになあ……」

 まさか、ここまで来て次男坊一人にだけ帰れとは言えない。

 控えの間に行ってからも、雪正は深刻な胃痛を覚え、ひとりうんうんと唸っていた。あっと言う間に、垂氷郷の挨拶の番が回って来てしまい、隣には嫡男である雪馬を、後ろには妻と次男、三男を従え、雪正は広間の中央へと進み出た。

 広間の両脇には、挨拶する一家を挟むように、北家ゆかりの貴族――宮烏達が、すでに打ち揃っていた。面前の上座には、どっしりと腰を下ろした北領の領主、つまりは、北家当主とその奥方が並んでいる。

 そして、当主とほぼ同格の位置に、見慣れない偉丈夫がひとり、ゆったりと腰を下ろしていた。

 大柄な当主にも見劣りせぬ、立派な体格の青年である。

 生まれの高貴さが現れたような、優れて整った面差しをしている。だが、他の宮烏にありがちな、なよなよとした雰囲気はまるで感じられなかった。紫の法衣に硬質な黒髪を流し、くつろいだ様子でありながら、その背筋はきちんと伸びている。こちらを見る目は毅然としており、なにより、身の内から滲み出るような威風があった。

「お館さま、まずは、新年のお慶びを申し上げまする」

 とりあえず来訪の目的を果たすために口上を述べれば、当主は「おう」と嬉しそうに応じて、片手を上げた。

「顔を上げい、雪正。家族揃って、良く参ったな。それから、梓!」

 当主は雪正の妻に向かい、親しみを込めて名を呼んだ。

「そなたに会うのも久方ぶりじゃな。子ども達ともども、息災にしておったか」

 三兄弟は、顔を伏せたままでハイと返答し、声をかけられた梓が、慎ましく微笑んで顔を上げた。

「おかげさまで、つつがなくやっております」

 それに満足げな頷きを返した当主は「早速だが」と傍らの青年に掌を向けた。

「このお方は、金烏宗家からおいで下さった、長束殿である。ご挨拶申し上げよ」

 やはり前日嗣の御子だったかと思いながらも、雪正は丁重に頭を下げた。それに鷹揚な頷きを返すと、長束は朗々とした声で喋り始めた。

2024.04.15(月)