頭を下げられた人物は、ここにいる誰よりも青い顔になって、こぼれんばかりに目を見開いて雪哉を凝視している。
まだ若い宮烏だ。おそらくは、十五かそこらの少年だろう。
彼が座っているのは、広間の末席である。あまり高い身分ではないだろうが、宮烏であるのは間違いない。父親と思しき宮烏が、少年の隣で「こ、これは何事か!」と上擦った声を上げていた。
急遽、気を利かせた使用人が急いで用意した別室に移り、雪正一家と当主夫妻、そして、雪哉に土下座をされた若い宮烏が向かい合う。
泣きながらの雪哉の言葉と、その兄弟達の説明を統合し、雪正はようやく、一連の全容を把握するに至ったのだった。
「と、いう事は何か。今回の一件は、こちらの坊ちゃんが、うちの郷で売っていた餅を、勝手に食べたのが発端だったと?」
「はい、その通りです」
時は新年である。ささやかとはいえ、地方にだって市は立つ。そこで売っていた餅を、中央から里帰りをしていたこの宮烏の坊は、金を支払わずに食らったらしい。
憤然と事の次第をまくしたてたのは、垂氷郷の子ども達の間で、ガキ大将として慕われている三男であった。何でも、食い逃げされた者の子どもに泣きつかれたらしい。
「それで、どうして雪哉が怪我をする羽目になったのだ?」
訝しむ当主の前で、長兄はむっつりと黙り込む末弟の頭に手を置いた。
「こちらの宮烏サマは、こいつの訴えに耳を貸さなかったんですよ」
皮肉たっぷりな言い方から察するに、どうやら長男も腸が煮えくり返っていたらしい。
「郷長の息子であると名乗り、正式にお代を要求したのに対し、返って来たのは銭ではなく嘲りです。泣きながら帰って来たこいつに代わり、雪哉が交渉に向かったのです」
「でも、話を聞いてくれなくって」
しゃくりあげながらの雪哉の言葉に、当主はきつく眉根を寄せた。
「それが本当だとするならば、わしは対応を考えねばならんぞ、和麿」
和麿と呼ばれた若い宮烏は心外そうに目を剝くと「恐れながら」と声を裏返した。
2024.04.15(月)