「わたくしの言い分も聞いて下さいませ!」
聞こう、と頷きを一つ返され、和麿は目に見えて安堵した。
「だって、当主さま。わたくしはこの者が、まさか郷長の家の者だとは、夢にも思わなかったのです。賤しい『山烏』が『宮烏』を詐称するなど、許されることではありません。ですから、この者を嘲ったのではなく、たしなめたつもりでおりました」
『山烏』とは、『宮烏』に対し、身分の低い者を貶めて言う呼称である。
この言葉に当主が反応する前に、喧嘩っ早い末っ子が立ち上がった。
「ふざけんな! 俺は最初に『郷長の代わりに来た』と言ったぞ」
嚙みつくような抗議に、和麿は意地悪く目を細めた。
「こんな調子で、礼儀もなにもなく喚く子どもが、まさか郷長の子息と思えましょうか。どう考えても、噓を言っているようにしか聞こえませんでした。それに、手を出して来たのもこいつが先です」
友人達が庇ってくれなければ、怪我をしていたのはわたくしでした、と和麿は澄まして言い返す。
悪びれない様子に、長男と三男は悔しそうに歯嚙みした。
「あの……和麿さまのおっしゃる事は、もっともだと思います」
意外な所から、おずおずとした声が上がった。難しい顔をしていた当主は、和麿の肩を持つ形となった雪哉を驚いたように見やった。
「と、言うと?」
「弟が先に手を出したのは、本当です。僕も話を聞いて、確かにこっちが悪いと思いました」
「雪哉兄」
「おい、雪哉」
何を言うのだ、と非難の視線を寄越した兄と弟に構わず、雪哉は力無くうなだれた。
「だから今日、和麿さまに会いに行ったのは、弟の非礼を謝るためというのが本当です。僕、ごめんなさいを言いに行ったんです。でも、その謝り方が、お気に障ったようで……」
「何?」
顔をしかめた当主に、目に見えて和麿が慌てだした。
「違うのです、誤解です。これはその、双方の勘違いから起きた事故で」
「僕は、弟が手を出したことを謝って、それから、改めてお代を返して下さいって言いました」
2024.04.15(月)