「何をしている」

「は? いえ、これから仕事を始めようかと」

「まだ、仕事の説明が終わっていないのにか」

 雪哉は思わず、こめかみを押さえた。

「失礼しました。まだあるんですね」

「私はこれから、澄尾とともに外に出るので、帰って来るまでに部屋の片付けをしておいてくれ。書物が出しっぱなしになっているから、分類ごとに書棚に戻しておけ」

「分かりました」

「それと、私宛てに便りが届く予定になっている。昼になったら民政寮に下りて、受け取って来て欲しい」

「民政寮って」

 どこだっけ?

 知らないんですけど、と叫びたいのを堪えて、雪哉は実家で読んで来た、宮廷についての書物の内容を思い出そうとした。確か民政寮は、兵部省の部署のひとつだったはず。そして兵部省といえば、喜栄の勤め先だ。ひとまずは喜栄のもとに行って、場所を確認させてもらおう。

 しかし、朝廷との往復を考えると、結構時間がない。

「分かりました! じゃあ、先にお部屋を片付けちゃいますね」

 腕まくりをして、雪哉は鼻息を荒くした。やけっぱちになりつつも、雪哉は全部やるつもりであった。地家生まれのたくましさを、舐めてもらっては困るのである。

 だが、再び若宮が変な顔になった。隣にいた澄尾も痛ましそうな表情になるのを見て、雪哉はその場に凍りつく。

「あれ。もしかして、これで終わりではないので?」

「当たり前だ」

 部屋にある書物の中には、図書寮で借りて来たものもあるので、それを返しに行く事。

 図書寮の官吏には文を書いておいたので、そこでまた新しい本を借りて来る事。

 式部省の誰それに届け物をする事。

 その頃には、おそらく民政寮にも新しく書簡が届けられるはずなので、それを受け取り、中身の緊急性が高い順に机の上に並べて置く事。

 招陽宮の厩の掃除をし、水を取り換えておく事。

「ああそれと、紙を切らしていたのだった。補充しておいてもらえるか」

 命令している方が悪びれていない分、余計悪質である。

2024.04.15(月)