門から入ってすぐの空間だけが、まるで、吹き抜けのような形になっている。

 明り採りの窓からの光が直線となって、紋様の刻まれた石床へと降り注いでいた。天井は遥かに見上げるほど高く、その升の目に張りめぐらされた梁と梁の間には、見事な意匠の彫り物がなされている。

「ここが『朝庭(ちょうてい)』だよ、雪哉」

 喜栄が、石の床を爪先で叩きながら説明をしてくれた。

「大きな儀式の時は、朝庭に官人が総出で並ぶのだ。向かい側の、一番上の場所が見えるか」

 一面そのものが門扉となっている大門以外の三方には、何層にもわたって欄干が取り付けられている。おそらくは、あの奥で層になっている部屋のひとつひとつが、各部署となっているのだろう。喜栄に指差された正面の最上階をと見れば、文官が出たり入ったりしている他の場所と違い、そこだけが閉め切られていた。一際豪華な装飾が為されている事から考えても、どこか特別なのは察しが付く。

「あそこが大極殿。金烏の玉座がある所だ。儀式の時はあの扉が開き、直接、陛下のお声を聞けるようになっている」

 これが宮廷というものかと雪哉が感心していると、大門の対面にある欄干の下から、青い官服をまとった官人が現れた。どうやら、朝廷における喜栄の取り巻きらしかったが、荷物だけ渡した喜栄は、軽く手を振って彼らを部署へと帰してしまった。

「今日はお前を招陽宮(しょうようぐう)へ――若宮殿下の宮まで、案内してやらねばならないからな」

「おやま。お手数をおかけいたします」

 屈託なく「構わん」と笑った喜栄は、自ら朝廷の中を案内しながら、若宮の御所へと雪哉を連れて行ってくれた。

 喜栄は、大門から見て右手の欄干下をくぐり、いくつもの階段を上って行った。

 すでに、官人達は始業の時間となっているため、行く先々で、働く官人の姿を見る事が出来た。中には喜栄を認めて、こちらに近寄って来た官人もいた。

「喜栄殿がこちらにいらっしゃるとは、珍しいですな」

2024.04.15(月)