話に聞いていた大門は、雪哉の想像よりもはるかに規模が大きかった。形そのものは、昨日見た中央門とほぼ同じだ。しかしその大きさは、まるで比べ物にならない。
岩壁に食い込むように造られた門は、そこに降り立ってしまえば、全貌を一目で把握することが出来なかった。大人が五、六人手を回して、やっとひとめぐり出来る程に柱は太く、金具は雪哉の顔よりも大きい。丹塗の柱は色こそ鮮やかだが、かなりの年数を誇るものに違いなかった。
門の前に造られた懸け造りの舞台には、今もぞくぞくと各家の貴族達が宮中入りするために飛車を乗り付けている。
「雪哉、何をしている。こっちだ」
きょろきょろと周囲を見ていた雪哉に、喜栄が声をかけた。慌てて喜栄の姿を探せば、大門の中へと入って行くところであった。慣れた様子で大門の下を抜ける喜栄の後ろを、雪哉は駆け足でついて行く。赤や緋色の官服ばかりの中で、雪哉の身に付けている薄い青色が、異様に目立っていた。
位の低い官人の官服は、全て青と規定されている。
藍染めの官服は、官位が高くなればなるほど、色が濃くなる決まりとなっているのだ。雪哉の身に付けている『水浅葱』は、藍としてはごく薄い色であり、位が最も低い事を表していた。一方で赤や緋、緑などの官服は、いずれも藍の官服の、その上の位にしか許されていないのである。
主に上級官人の利用する大門において、浅葱色の官服を着ているのは、見た限り雪哉だけのようであった。他の者だったら気遅れしてもおかしくはない場面だったが、雪哉は持ち前の図太さを発揮して、しかつめらしい顔の門番を横目に、平然と大門を通り過ぎた。
だが、山の中に入ってみて、流石の雪哉も啞然となった。
岩肌を削って作り上げたものと聞いていたから、勝手に洞穴のようなものを想像していたのだが、実物はここが山の中であるということを忘れさせるほど広く、豪奢であった。
門扉の向こう側は、漆喰と漆塗りの柱によって整然とした様相を呈す、大広間だったのである。
2024.04.15(月)