え、とあせびは思わず声を上げた。
「協力って、だって、あなたは夏殿の」
言いかけたあせびを遮り、早桃は小さく首を横に振った。
「もとより、私は宗家の人間です。藤波さまには、自分に代わってあせびさまを主と思うようにと、あらかじめ言われております。浜木綿さまではなくて、です」
早桃は渋い顔で続けた。
「それに、夏殿は少し、雰囲気がおかしいのです。藤波さまに言われなかったとしても、私は浜木綿さまにも夏殿の女房にも、好感は持てなかったと思います」
その言い方に気になるものを感じて、あせびは聞き返した。
「雰囲気がおかしいって?」
「夏殿の女房と浜木綿さまは、お互いにお互いを無視しているみたいなのです」
それには、思い当る節があった。確かに夏殿の女房は、総じて無口で無愛想な者が多い。南家から来た女房と元宗家付きの女房との間で、大きな溝があるのかもしれなかった。
「ですから、あせびさま。どうか、私を使って下さいませ。どんなことでもいたします」
そう言った早桃の瞳の色は、限りなく真剣なものだった。
「こんな言い方は失礼になると分かっております。でも、私はあせびさまのお気持ちに、感動いたしました。浜木綿さまのおっしゃることを聞いておりましたから、余計にです」
政治の道具としてではなく、純粋な恋として成就する入内があってもいいと早桃は言う。
「私の弟が、もうすぐ山内衆――宗家近衛隊の、養成所に入ります。そうしたら文で、若宮さまのご様子を聞くことが出来るでしょう。他にも宗家の女房として、お役に立てることがあるはずです」
心の底からそう思ってくれているのだろう。あせびは、今までに感じたことのない親しみを早桃に覚えた。
「ありがとう。でも、入内とか、おおげさなことを考えないでいいのよ。ただ、私の相談に、時々付きあってくれないかしら」
おおげさなこと、という言葉に一瞬反論しかけた早桃は、続けて言われたその言葉に顔を輝かせた。
2024.04.10(水)