そして、誇らしげに胸を張る。
「どちらも、西領でしか取れないものでございます」
あせびの陰で、うこぎがうんざりしたようなため息をついた。それが聞こえたわけではないだろうに、真赭の薄は、上機嫌のままあせびを振り返った。
「それで? あせびの君の香は、どんなものですの?」
「は?」
それまで、二人をぽかんと眺めていたあせびは、ぱちぱちと目を瞬いた。しまったとばかりにうこぎが頬を引きつらせたが、今さら遅いのである。自分の知っている香と言えば、うこぎがいつも用意してくれる物くらいだ。聞いたことはないが、それも東家秘伝のなんちゃら、というような代物ではないだろうと思った。
「あの、申し訳ありません。私、そういうのはよく分からなくて」
「そういうの、とは?」
「丁子とか、麝香とか……高価なものは使ったことが無いのではないかしら。あの、薫物合わせをしたこともなくて」
ご冗談でしょう、と、真赭の薄は素っ頓狂な声を上げた。
「東家は、そんなに余裕がありませんの?」
「おそれながら!」
侮もあらわな視線に耐え切れなくなったように、うこぎは声を大きくして割り込んだ。
「姫さまの香は、先代から製法を譲り受けし、由緒正しきものでございます。普段から使用しておいででしたゆえ、そのような自覚が無かったものと思われます」
「でも、薫物合わせもしたことがないだなんて」
「宮烏として異常ですわ」
ひそひそと、秋殿の女房達が囁きを交わす。真っ赤になってあせびが俯くと、うこぎは意地になったようであった。
「姫さまは、体が少し弱いのです。そうなっても致し方ございません!」
それにしたって、と、女房達は物言いたげな視線を交わす。なんとも形容しがたい空気になったところで話題を変えたのは、気を利かせたのであろう、菊野であった。
「お体の調子が悪いというのは、きっと、悪い気が溜まっておられたのでしょう。もうすぐ、雛の祭りがございますれば、きっと良くなりますわ」
2024.04.10(水)