「分かっているではないか。南家の女はみんなそうだ。男たらしの西家とは違うんでな」
低く笑った浜木綿に、真赭の薄は冷ややかな視線を返した。瞬間、二人の間で火花が散ったような気がした。
「お会い出来るのを楽しみにしていましたのに。どうやらあなたとは、仲良くなれそうにありませんわ、夏殿の御方」
「同感だな、秋殿の御方。アタシも、派手好みの女は好きじゃないんだ」
無礼な、と、真赭の薄の背後にいた女房が声を荒げた。
「この方をどなたと心得る? 恐れ多くも、西の家一の姫――」
浜木綿はうるさそうに、女房の言葉を途中で遮った。
「そしてアタシは、南の家一の姫なんだ。心得違いはどっちだい」
下っ端は黙ってな、と邪険に言い捨て、浜木綿は真っ向から真赭の薄に向かいあった。
「指をくわえて見ているがいいさ。若宮殿下を籠絡したところで、最後にものを言うのは家の力なんだ。おまえの美貌など、何の役にも立ちはすまい」
余裕たっぷりに笑った浜木綿に、真赭の薄も艶麗な微笑を返した。
「そのお言葉、そっくりそのままお返しいたしますわ。今上陛下がその結果どうなさったか、中央の人間はみんな、忘れていなくてよ。大紫の御前のようにならないことを、心の底から祈って差し上げますわ」
おやさしいこって、と吐き捨てた浜木綿は、長い裾を捌いて踵を返した。
「気分が悪い。帰るぞ」
それまで一言たりとも口を出さなかった浜木綿付きの女房は、やはり無言のまま、そのあとに続いた。足音も高らかに自分の屋敷へ帰っていく後ろ姿に、真赭の薄はふん、と鼻を鳴らした。
「南家はね、ああ見えて余裕なんかないんですのよ。西家が力をつけてきたものだから、焦っていますの」
激しい応酬に呆気にとられていたあせびは、真赭の薄の言葉にぎこちなく振り返った。
「焦っている?」
「ええ。大紫の御前は、面目まるつぶれですもの」
それから、先ほどとは打って変わった笑顔になって、あせびへと腰を折った。
2024.04.10(水)