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とうとう始まった「すみ塗り」はまるでホラー映画のようだった

 さあ、いよいよ神事もクライマックスへ。「むこ」二人が火のついた松明を「塞の神」に突き刺し点火する。「塞の神」はもうもうと白い煙を吐きながらバチバチと音を立てて真っ赤に燃え始めた。

 そして、ブオオオ!! と高らかに吹かれたホラ貝の音を合図に「すみ塗り始め!」と声がかかった。一斉に賽の神に人々が群がり、焼け藁から出た灰と雪を混ぜてこすると手が真っ黒に。

 黒い手の町の人々が、新婚夫婦にジリジリと迫る。おお、なんだかホラー映画のワンシーンのようだ。そして顔をこわばらせ目を見開いている“むこ”の岡田さん夫妻や佐藤さん夫妻の顔をガッ! とつかみ「おめでとう~!!」と炭を塗る。「ぎゃー!」と叫びながらも笑い声を上げる夫妻の白い顔に黒い手の跡がつけられた。

 さらに災難……いや祝福は続く。「むこ」の佐藤さんの背後からヒタヒタと近づいてきた友人が佐藤さんをヘッドロック! 「ぶああああ!」と顔にグリグリと猛烈に炭を塗り込む友人! 彼は佐藤さんの大学時代のラグビー部の仲間の一人で、今日は「むこ投げ」で佐藤さんを担いだり投げたりと大活躍だった人だ。

 私は「むこ投げ」が終わった後、彼らに「村娘をとられたやっかみから始まったといわれる『むこ投げ』ですが、今日はどんな気持ちで佐藤さんを投げましたか?」と聞いたのだが、その時の言葉を思い出し反芻した。

「佐藤夫妻にやっかみなんて0%です! おめでとう100%、いや300%です!」

 そうさわやかに答えていたのだが……だいぶ手荒い「おめでとう300%」である。

 ようやく友人の急襲から逃れた佐藤さんは目を光らせ、「今からやり返してこようと思います!」と賽の神に炭を取りに走って行った。

2024.03.30(土)
文・撮影=白石あづさ