加藤 衝撃的な作品でした。中学生の頃から大学卒業にかけて、ずっと手紙でやり取りを続けるなんて、今の時代にはないコミュニケーションの形ですよね。縁を繋ぎ続けること、手紙を書き続けることに、感動しました。

 高頭 かつては恋人同士で手紙を書き合うこともあったかもしれませんが、今はなかなかないですよね。やはり手で書くと気持ちが深まったり、思いが文章に染み込んでいくと思います。本来は自分が発信した手紙を相手が受け取って、その先で実際に会って……という展開があるものだと思いますが、久島と望未は、あえて手紙のやりとりだけを選ぶんですよね。作中ではコロナ禍の人間関係が描かれますが、今は、自分が何者であるのか明かさずとも、リモートで人と関われてしまう。2人が文通だけで繋がっていたことって、かえって現代的な対人関係とも言えますね。

 加藤 読了後「読んで良かったな」と思える小説でした。あまり王道の恋愛小説を読まないこともあり、普段なら手が伸びないタイトルだったのですが。

 川俣 私も加藤さんと同じタイプで、なかなか自発的には選ばなかった本かもしれません。その分読みながら、村上春樹作品を彷彿とさせる読み味を感じました。ストーリーがとても面白くて、どんどん先を読みたくなる一方で、主人公の久島という男性への感情移入が難しく感じるところが、似ているなと。

 山本 まさに久島って、春樹作品に似た雰囲気をまとっていますね。物語全体として、久島が紡いだおとぎ話のようで、男性からの一方的な思考を押し付けられているように感じる方もいらっしゃるかもしれません。彼の自己弁護は、特に女性にはなかなか共感されないのでは、とも思います。そういう主人公を作り上げたという点で、文章の上手さも相まって、ものすごく完成度の高い作品でした。

 高頭 登場人物がみんな相手に対してどこか格好つけていて、私をイライラさせるんです(笑)。そういうところも小説としては面白かったのですが、「共感できる、わかる!」と思えるものが良い恋愛小説だと感じる人には、おすすめできないかもしれません。

2024.03.28(木)