累計300万部突破の『君の膵臓をたべたい』でデビューし、次々と話題作を世に送り出してきた住野よるさんが、10作目にして原点回帰。高校生の男女を主人公に据えた、ど真ん中の青春恋愛小説『恋とそれとあと全部』を刊行した。
住野さんが「恋愛小説」の大先輩としてリスペクトを抱く存在が、島本理生さんだ。この日初対面となった二人が、恋愛や死、高校生という年代を描くことの魅力について語り合った。


◆男女が恋愛関係になる前にたくさん会話をするのが今っぽい

住野 僕が初めて読んだ島本さんの小説は、『リトル・バイ・リトル』です。

島本 わあ、懐かしい。デビューして二作目の単行本でした。

 
 

住野 島本さんの小説を読むといつも、恋愛って色んな形があるんだなと感じるんです。例えば、僕は恋愛を書く時に、相手の外見と恋心と性欲を分けて考えているんですが……。

島本 外見と恋心と性欲を分けて考えるとして、優先順位があるということですか?

住野 そうですね。自作の『この気持ちもいつか忘れる』という小説が自分にとっても象徴的で、好きな相手の姿がほとんど見えないって話なんです。異世界の住人で、光っている目と爪しか見えないんだけど好きになる。外見の情報はゼロだし性欲は働かせようがないけれども、恋心だけはあるという。全部が別々の価値を持っていると思っているんです。でも、島本さんの『ナラタージュ』や最新作の『憐憫』では、その三つが渾然一体とした不可分のものとして書かれている。自分は書いたことがないな、いつか書いてみたいなと思ったりしました。

 
 

島本 住野さんの『恋とそれとあと全部』は、高校二年生のめえめえ(瀬戸洋平)と同級生のサブレ(鳩代司)のお話で、ひと夏の旅を描いた青春恋愛小説ですよね。その小説で中心に書かれているのが、彼らの本当にたくさんの対話です。恋愛関係を結ぼうとする前に、ずっと相手のことを考え続けて、互いに丁寧に言葉にして確かめていく感じが、すごく今っぽいと個人的に思いました。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘