住野 年齢を重ねるごとに、恋愛ものにぜんぜん感動しなくなっている自分がいるなぁと思っていたんです。でも、GOOD ON THE REELというバンドの方たちとお仕事をさせていただく機会があって、それはボーカルの方と架空の男女になって交換日記をして曲を作るというもので。そのお仕事がかなりグッときて、まだ自分は恋愛のことで感動するんだ、とテンションが上がったんです。自分のキュンキュンできる心をもう一回呼び覚まそうと思い、現在進行形の恋愛をやろうとしたのがこの小説でした。

 
 

島本 主人公の高校生たちの感覚って、私はだいぶ忘れてしまったことを痛感したんですが、住野さんも遠くなっていたんですか。

住野 そうなんです。あと、僕が今まで書いてきた小説の主人公たちは、男らしさや女らしさといったものを気にしない子たちが多くて。今回初めて、男らしいことをかっこいいと思う男の子を書いてみようと思って、めえめえはがっつり体育会系になりました。サブレは、めえめえが好きになる女の子はどんなかなぁというところから生まれていきましたね。

島本 主人公像に変化があったのかなというのは、私も感じたことでした。今回の作品は、『君の膵臓をたべたい』とリンクする部分が結構ありますよね。恋もあって、それ以外の気持ちのグラデーションもあって、主人公の男の子が、すごくいろんなことを考えながらヒロインを見ているのは共通するところだと思うんです。『膵臓』では最後の方の場面で、自分たちの関係を恋愛とか恋人同士と名付けるのがもったいない、というような主人公の感情が描かれてもいる。ただ、今回の主人公は……ネタバレになりすぎるとよくないんですが、そこから一歩踏み出したように感じました。

住野 『恋とそれとあと全部』は僕にとって十作目の本なんですね。一つの区切りとなる十作目に何を書こうかと考えて、今までやらないと決めていたことをやってみました。初めて得意分野をちゃんとやってみようと向き合ったのもその一つです。今までいろいろな人から一番褒められたのはどこかというと、『膵臓』の二人が旅行をするシーンなんですよ。それで今回、高校生の男の子が同級生の女の子に誘われて田舎へ一緒に行く、ロードムービーっぽい構造を取ることに決めたんです。そこからどんなチャレンジをするかはものすごく考えました。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘