島本 愛があふれている感じ、読んでいると伝わってきます。

 
 

住野 僕は登場人物たちを頭の中に描いて、彼らと喋りながら小説を書いていくんです。落語みたいに「お前、何々やろ」「いやいや、違う違う」って一人で会話をしているので、傍から見るとヘンな人ですよね。その話を編集さんにした時、「島本さんも電車の中で一人でしゃべっていて、ヘンな目で見られることがあるとおっしゃってました」と聞いたんですが……。

島本 あります(笑)。特に「私」の一人称で書いていると、主人公は私の頭の中にいて、他の登場人物と喋っているような感じになって、たまに一人で会話しちゃっている時がありますね。

住野 他の登場人物は外にいるという感覚は新鮮です。僕は会話を通して相手や自分がどんなことを考えているかについて書くのが好きで、そればっかり書いていたいタイプなんですよね。島本さんの小説と比べてみると、いかに自分が情景描写をしないか、登場人物たちの周りにある自然のありようなどに興味がないかがよくわかります(笑)。島本さんは、あたかもその空間がそこに本当に存在しているかのように、しっかり描写を重ねてらっしゃる。

島本 単純に、私は情景描写が好きなんですよね。好きだからそこに力を入れるんですけど、逆に興味がない部分はスコーンと抜けていたりする。例えば、住野さんの小説って楽しそうなんですよ。でも、私は小説の中で、登場人物たちが楽しそうな様子を書くのがあまり得意じゃないんです。どちらかというと、追い詰められていて救われてホッとすることにカタルシスがあって、そういうのを書きがちなんです。今回の作品を読みながら、小説を書くのも読むのも楽しいから好きだった、そんな初心に帰る気持ちになりました。

住野 僕も実は、作品の受け取り手としては「つらい」と思うものが好きなんです。でも、特に今回の作品は十代の話だし、十代の読者さんが生まれて初めて取る本でも楽しめるようにしたくて。「小説は遊びだ」という意識で書きました。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘