島本 今回の作品でお書きになった「一歩」って、読者さん的には「書こうと思えば書けるんじゃない?」と思われるかもしれないですけど、書き手としては実はすごく難しいものである気がするんです。『膵臓』でデビューしてからさまざまな作品を執筆されてきた時間を経て、住野さん自身も書き手として進もうとしたのかな、と私は読んでいて感じました。

◆女の子たちのことを必死で理解しようとする男の子たち

島本 住野さんの小説の主人公たちは、今回のめえめえがまさにそうなんですけど、一緒にいる女の子のことをずっと考えていますよね。相手の子が考えていることを、考えている。女の子の考えていることって、外からはなかなか見えにくいと思うんですよ。私も高校生だった頃、同級生の友達の女の子と話していると、「そんなこと考えてたの⁉」とびっくりすることがよくありましたし。男の子って、あんなにみんな一生懸命考えるものですか?

住野 女の子は自分たちよりも複雑なものだという意識が彼らにあると思います。でも、せめて好きな子のことぐらい理解したくて、めえめえはずっとサブレのことを考えているのかなと。

島本 女の子たちのことを必死で理解しようとするかわいい男の子たちという印象を、めえめえはもちろん、男友達のダストやハンライからも受けました。私、エビナに突然告白するダストのエピソードを読んで「こういう男の子いた!」ってなりました。学生時代、友達の女の子が同じ男の子から二、三回告白されたんですけど、タイミングがよく分からないんですよ。水泳の授業中とか。なんでそこなの? みたいな。好きという感情が変なタイミングで暴発しちゃう感じが懐かしかったです。

住野 たぶんダストもその子も、自分なりに考え抜いたタイミングだったんでしょうね。ダストみたいな子、本当にいるんだ(笑)。

島本 いました(笑)。

住野 嬉しいです(笑)。登場人物のことを考える時に、その子の気持ちになってみるという作業時間がとても長いんです。だから、登場人物たちに対してすごく愛情過多になるんですよね。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘