住野 『膵臓』(『君の膵臓をたべたい』)でデビューした時に、男性の出版関係者の方から「同級生の女の子と同じベッドで寝てるんだから何もないはずない」みたいなことを言われていたんですが、二人の関係はそういうことじゃないんです、って話をしていた記憶があります。今回の主人公のめえめえもそう、まずはじっくり相手を理解するための対話なんです。

島本 今のお話を伺いながら、私はもしかして最近渾然一体の恋愛とは違う形の恋愛に興味が出てきているのかも、と思いました。恋心も性欲も一体となって始まってしまう恋愛ではなくて、もう少し段階を踏むようなものを書いてもいいのかな、と。去年新聞連載をしていた小説には、付き合う前の男女が、自分たちが考え出したカードゲームをやりながら、ずっとお互いについて質問し合う場面があるんですよ。二人ともいい大人なんですけど。

住野 イイですね!!

島本 今回の対談に当たって『君の膵臓をたべたい』を読み返したら、あの小説の二人がやっていたこととほとんど同じことをやらせていたことに気付いて、「パクってないよ!」と誰に言い訳するでもなく思ったんですけど(笑)。一目見て運命的に惹かれて、性欲も恋心も全部渾然一体になっていく恋愛は、『憐憫』を書いて一区切りついたかなと思っているんです。主人公が結婚していると、恋愛ものってどうしても不倫の話になっちゃうところにも、ちょっと引っ掛かりがあって。

住野 素敵です。恋愛ものの傑作をたくさん発表されてきた中で、先輩小説家がこれからまた変わろうとされているってすごく希望を感じます。

◆『君の膵臓をたべたい』とリンクしつつ、そこから一歩先へ踏み出す

島本 『恋とそれとあと全部』は、高校生たちの楽しくて真面目な恋について、今まさにリアルタイムで起きていることのように書いてらっしゃるのが素晴らしいと思いました。どこから最初の着想を得たのか、ぜひお伺いしたかったです。

2023.04.14(金)
構成=吉田大助
撮影=佐藤亘