山本 「好き」という気持ちが、人だけでなく、自然や現象に対しても強く発揮されているのが、すごく良かったですね。恋愛の枠にとどまらず、「愛情を注ぐ」ということについて書かれるのは、河野さんならではと思いました。

 加藤 本当に楽しく読める小説でしたが、恋愛と言われると、少し違うのかなと。時代を超えて好きが交錯し、好きが世界を変える。「大人の恋愛小説」ではないんじゃないかなと感じました。

 川俣 楽しいファンタジー小説ですよね。過去の恋愛パートにキュンとするポイントもあるのですが、物語としては、神と人間の対決まで描かれる、ポップなファンタジーになるかなと思います。

 高頭 日本古来の神様がたくさん出て来るじゃないですか。ちょうど町田康さんの『口訳 古事記』(講談社)をきっかけに『古事記』がマイブームだったので、個性あふれる神様たちの競演が面白かったです。結ばれるのがかなり難しい状況にある2人は出会えるのか、そもそも運命の相手が、杏の生きる現世では一体誰なのか、そこにはドキドキしてしまいますが、この楽しさは大人の恋愛小説とは違うのかなとも思います。でも、前世でのエピソードは一つ一つが切なくて、胸がキュンとします。

 花田 ラノベ世代についても考えるところがありました。ラノベは若い人のものという印象がありますが、例えばかつて谷川流さんの『涼宮ハルヒ』シリーズ(角川スニーカー文庫)を楽しんだ読み手も、当然年を重ねてきていますよね。ラノベをずっと愛読してきた人のために、中高年に向けたラノベというジャンルが生まれることもあるのではないか……と思ったりしました。河野さんが、もしかしてその新ジャンルの担い手になるのではないかなと予感しています。

『最愛の』上田岳弘 

 ――主人公の久島(くどう)は、全てをそつなくこなす「血も涙もない的確な現代人」。彼の心から唯一離れないのが、学生時代に文通を続けていた望未(のぞみ)でした。彼女の手紙はいつも「最愛の」という呼びかけで始まりながら、「私のことを忘れてほしい」と繰り返し書かれていました。ある日、彼女の妹から「姉が昨年亡くなりました」とメッセージが届き、それを機に、久島は自分のための文章を書くことを決意するのですが……。

2024.03.28(木)