1970年代後半、ソ連占領下のエストニアで恋に落ちた、俳優志望の若き二等兵セルゲイとパイロット将校ロマン。実話を元にした映画『Firebird ファイアバード』でロマンを演じたオレグ・ザゴロドニー。現在、戦禍にあるウクライナ・キーウ出身のオレグは、今回特別許可を受けて来日した。モデルでもあり、ファッションを通して兵士を支援する“Brave+1”を立ち上げてもいる彼が、映画について、そしてウクライナの現状について語ってくれた。
――オレグさんが『ファイアバード』に参加することになった経緯を教えてください。
オレグ まずオーディション用のビデオを送ってほしいという連絡が来て送ったところ、セルゲイ役のトム・プライヤー、監督、キャスティング・ディレクターたちとモスクワで会うことになったんです。そこで出演が決まりました。その後も長い時間をかけて準備をし、リハーサルをしたりしましたね。
――ペーテル・レバネ監督は「オレグに会って30秒で、彼がロマンだと思った」と言っていましたが、ロマン役の俳優を探すのにかなり苦労したそうです。実は著名なロシア人俳優にも数名声をかけていたが、同性愛が題材の映画だとキャリアに支障が出てしまうとして、丁重に断られてしまったとも監督は言っていました(ロシアでは性的マイノリティへの弾圧が年々強まっており、同性愛宣伝禁止法があるため、本作の上映はできない)。
オレグ ロシア人の俳優でも望めば出演自体はできるでしょう。しかし、ロシアにおける人権侵害は本当にひどい状況なのは確かです。ゲイであることが明らかな著名人もいますが、それをオープンに言うことはできないんです。
僕の国のウクライナはセクシュアリティに関してはもっとオープンですし、自由に表現することができます。ロマンという人物を演じるのは俳優として非常に興味深いものがありましたし、物語に心惹かれました。冷戦中、ソ連の支配下にあるエストニアという、現代とは全く違う時代背景の中で、恋愛関係であり、様々なものが求められる役ということで、ぜひとも演じたいと飛びつきました。そして、それはとても素晴らしい旅路となったんです。
2024.02.21(水)
文=石津文子
撮影=深野未希