ロマンは女性のルイーザと結婚するが
――セルゲイはロマンを一途に愛するけれど、ロマンはセルゲイを思いつつも、セルゲイの親友でもある同僚の女性ルイーザと結婚します。これはルイーザにとっても悲劇だった、と監督は言っていました。とても複雑な人物ですが、演じながらどのように感じましたか? そしてロマンがルイーザに対してどんな感情を抱いていたと考えて演じられましたか?
オレグ ロマンは最前線へ行くという決断をしますが、あれは死に場所を求めてのことだったと僕は解釈しています。彼はとても苦しんでいたんです。ロマンティックな意味ではないけれども、ルイーザにはある種の愛情は感じていたと思いますし、結婚生活に喜びを見出す部分もあったと思います。
でも彼の心には常にセルゲイへの想いがあり、ルイーザを全身全霊で愛していたわけではないので、そのことに葛藤していた。もし別の体制、別の法律のもとに生きていたなら、彼はセルゲイとの愛を成就させ、ルイーザと結婚することはなかったでしょう。だからこそロマンは自分のしたことを重く受け止めており、自分を罰するため最前線に向かったのだと思いますね。
――オレグさんはウクライナのキーウから来日されました。現在もロシアからの侵攻が続いている中、どのような生活をされているのでしょうか?
オレグ ウクライナの現状ですが、思った以上に解決まで時間がかかっているというのが僕の実感です。僕の周囲にも最前線へ向かった人がいますし、爆撃で亡くなった人もいます。実はつい先日もドローンによる攻撃があったのですが、なんとそれは隣の家だったんです。夜中に爆撃の音でハッと目が覚めて「あ、僕じゃなかった」と感じる。それが日常です。当初はすごくショックを受けていたけれども、そんな日々が2年も続くと、慣れっこになってしまいました。悲しいことですが。
でもこうやって海外にやってくると、多くの人が当たり前に暮らし、人生を楽しんでいるんだなと感じますね。ウクライナではサイレンが鳴ったらショッピングセンターが閉められ、子供たちは防空壕へ駆け込むという日々がずっと続いています。多くの人が家や車を失っただけでなく、さまざまな機会を失っています。僕らの生活は一変してしまいました。でも我々が戦う理由ははっきりしています。そして世界中が支援してくれていることを感じます。超大国ロシアに比べたら、僕たちウクライナはほんの小さな国です。もし一対一で戦ったなら、ウクライナに到底勝ち目はないでしょう。しかし世界中からの応援のおかげで、僕らは持ち堪え、戦い続けることができるのです。
映画『Firebird ファイアバード』
監督:ペーテル・レバネ/2021年/エストニア・イギリス作品
新宿ピカデリー他にて全国公開中(配給:リアリーライクフィルムズ)
https://www.reallylikefilms.com/firebird
1977年、ソ連占領下のエストニアの空軍基地。俳優志望の二等兵セルゲイは除隊を間近に控えていたが、パイロット将校のロマンが赴任してくる。共通の趣味である写真を通して親しくなった二人は恋に落ちる。だが当時のソ連で同性愛が発覚すれば、逮捕されてしまう。セルゲイはロマンと秘めた関係を続けるが、彼らの上司が身辺調査に乗り出す。ロマンは同僚ルイーザとの結婚を決意するが……。
オレグ・ザゴロドニー
ウクライナの映画・演劇・テレビ俳優。1987年10月27日、キーウ生まれ。キーウ国立I.K. カルペンコ=カリー演劇・映画・テレビ大学で学び、2010 年に卒業。2010 年よりレシャ・ウクライナ国立アカデミック劇場に所属。2015年、キリル・セレブレニコフが芸術監督を務めるモスクワの劇場ゴーゴリ・センターに招かれる。2010年からは映画にも出演し、「DEMONS」と「1942」でデビュー。2021 年、国際的なプロジェクトである本作に大抜擢された。
モデルでもあり、オレグがデザインしたミリタリー調の洋服の売上が、最前線にいる兵士への支援となる“Brave+1 ” を立ち上げている。
https://www.braveplusone.com.ua/
2024.02.21(水)
文=石津文子
撮影=深野未希