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一番辛かったのは奈美恵かもしれません

――牧野さんの目には、安室さんはどのように映っていましたか?

牧野 私は父のような発見はなかったんですけど。当時の奈美恵は人見知りも激しかったし、人前でワーってするタイプでもなかったんです。色が黒くて細くて、その後スターになるなんて想像しなかった。

 スタジオでも、いつも部屋の隅っこにいて、照れて顔もハンカチで半分以上隠していて、こちらが何か話しかけても頷く程度。レッスンもはじめはそこまで熱心じゃなかったような。

――安室さんの凄さを感じたのは、どのあたりからですか?

牧野 小学生が参加できるカラオケ大会があったんです。当時MAXのMINAもよく出ていましたが、そこに奈美恵も出ることになったんです。アクターズでは、まだ奈美恵の歌声を聞いたことがなかったのですが、とりあえずエントリーだけさせて、父と一緒にテレビを観ていました。

 いざ、奈美恵の番が回ってくると、奈美恵がいきなりパワフルに歌いだして、父と顔を見合わせて「え……??」って。奈美恵、歌えるんだ……! 人前で努力を見せずに、家で頑張って練習して、本番で本領発揮するタイプなんだ! とびっくりしましたね。

 結局カラオケ大会でも優勝して、そこからみるみる変化していきました。

――お父さまは、「奈美恵を特別扱いする」と仰ったそうですね。

牧野 既にアクターズスクールから何十人もデビューしていましたが、私を含めて誰も売れなかったんです。沖縄の子どもたちの才能は間違いない。沖縄から一人スターを出して突破口を切り開かないと、後が続かないと言っていたところに奈美恵がいました。

 父はみんなに「奈美恵の才能は、お前たちとは全然レベルが違う。俺は奈美恵を徹底的にひいきするけど、お前たちはヤキモチを焼くな。奈美恵が売れることによって、お前たちの道ができるから、俺は奈美恵をとにかく育てる」と、ことあるごとに言っていて。

 普通、「あの子ひいきしてませんか?」と聞かれたら「そんなことないよ」と言いそうですが、「ひいきする!」って断言しちゃってますから(笑)。もう、ひいきしてますけど、何か……? みたいな。

 みんなも納得するしかなかったし、一番辛かったのは奈美恵かもしれませんが。

2024.02.29(木)
文=松永 怜
撮影=佐藤 亘