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娘が、物理的にも精神的にも、遠くに行ってしまう

 そんな母は、自分は一度も海外に出たことがないというのに、私を海外に出すことを厭わなかった。自分が母親となった今、十代の私を送り出した父と母の勇気には感服する。私が経験した山あり谷ありの海外生活を思い出すと、自分の息子たちに同じ経験をさせることは難しいとさえ思う。

 自分の住む町ですら出ることが叶わなかった母は、娘の私が、隙あらば海外に行く生活を長年続ける大人になるとは想像していなかったのではないだろうか。自分が育てた娘が、物理的にも精神的にも遠くの場所に行ってしまうと考えたときの母の心細さを想像すると気の毒にすらなる。

 そんな娘に、まさか新幹線に乗ることが怖いなんて、言えたものではなかっただろう。それも、子育てに苦しむあまり、苛立ちを募らせていた、辛辣な娘に。

実母と義母

定価 1,650円(税込)
集英社
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2023.11.22(水)
著者=村井理子