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 ドラマ「Mother」や映画『花束みたいな恋をした』など、心に残る数々の傑作を手掛けてきた脚本家・坂元裕二は、慣れない様子でスタジオに入ってきた。「緊張して、間違えて別のフロアに行ってしまって」――。普段取材を受けることは少ない坂元裕二が、今回久しぶりにインタビューを受けるという。

 今年6月、Netflixと5年契約の締結を発表。そして、初のNetflix作品となる映画『クレイジークルーズ』の公開を控え、本作にかける思いや、これからの作品づくりについて、率直な思いを聞いた。【後篇】を読む


やることが決まっていると落ち着いて仕事ができる

――「脚本家・坂元裕二、Netflixと5年契約を締結!」というニュースは衝撃的でした。定期的に坂元作品を観られるのは、視聴者として嬉しいことです。まずはオファーを受けたときのお気持ちから伺えますか?

 35年以上、ずっと一人でフリーランスの仕事をしているんですよね。たとえば連ドラの執筆をしている間も、次の仕事を請けたりスケジュールを組んだりしてるんです。ギャラ交渉も自分だし、精算もする。制作も営業も経理も一人でやっていて、人を介したくないし、一人がいいんですけど、さすがにちょっと疲れるんですよ。だから5年という単位の話をいただいたときは、率直に理想的な執筆環境だと思いました。もちろんその中で複数の仕事をやるわけですけど、5年間書くだけでいいというのは、すごく気が楽なんですよね。年齢的にもそろそろ書けなくなることを見据えながら仕事をしなきゃいけない時期なので、落ち着いて仕事ができるというのはいいなと思いました。

――テレビや映画と違う、動画配信サービス自体の魅力や、そこで執筆するうまみはなんですか?

 Netflixはグローバルだということはとても大きいですよね。世界配信はやはり魅力的です。自分の脚本家人生のうちの30年近くはとてもドメスティックに、日本のお客さんだけが観てくださっているものだと思ってつくってきました。しかし近年、アジアをはじめとする海外の方々もたくさん観てくださっていると知ったり、「Mother」や「Woman」というドラマが海外でリメイクされたりと、変化を感じています。内容面では別に何も意識してはいないのですが、それでも普通に海外で通じるんだ、言葉に障壁もないし、普通に同じ感情を持って観てもらえるんだっていうことが、この5、6年でわかってきた。そのままやればいい。それをNetflixでもできたらなと思います。

2023.11.15(水)
文=綿貫大介
写真=橋本 篤
スタイリング=DAN(kelemmi)