この記事の連載
- 『クレイジークルーズ』坂元裕二インタビュー #1
- 「クレイジークルーズ」坂元裕二インタビュー #2
恋愛というジャンルはそもそも空虚で空っぽなもの
――最近のテレビドラマを観ていて思うのですが、ロマンティック・ラブ・イデオロギーを基とした恋愛ドラマは一時代に比べてかなり減ってきている印象です。嬉々とした恋愛ドラマをつくるにはとても難しい時代になってきているのだなと思うのですが、この時代にラブコメを届ける際に坂元さんが意識されたことはありますか?
いろんな作品があればいいだけの話だと思います。今まではそれが偏りすぎていたんですよね。客観的な話で言うと、今の時代だから恋愛ドラマが難しくなったんじゃなくて、ラブストーリーだけでお話をつくるのはいつだって困難なことなんです。車と車がぶつかる瞬間や、人が人を殺す瞬間は映像として撮れるけど、人が人を好きになった瞬間というのは目に見えなくて、撮影できないじゃないですか。画に映らないし、それは脚本にも書けないものです。そういう問題をラブストーリーをつくってる人間はずっと抱え続けているんですよね。恋愛作品において、恋愛軸だけで物語をつくるなんていうのがそもそも困難なものなんです。だから昔から貧富の差があったり、病気で亡くなる悲恋があったり、近年だと契約結婚をしたりとか、そういうほかの要素を入れることで、恋愛ドラマをつくっている。要はそれって恋愛ドラマじゃなくて、格差ドラマであったり病気ドラマであったり結婚ドラマであったりするんだけど、それをひっくるめて恋愛ドラマと呼ばれているだけなんですよね。
恋愛だけを描いているものなんて実はそんなになくて、恋愛だけで作品をつくるのは、難しいことなんですよね。だから時代とセットであることによって、恋愛ドラマを新しく見せようとしたりして新鮮味を加えている。それも本当は情報でしかないんですけどね。恋愛というジャンル自体は、とても空虚で空っぽなので、そこに何を入れるかがやはり重要なんですよね。ラブストーリーを低く見たり、嫌いだと言う人はいつの時代も一定数いるけど、今後も、つくるのがとても難しいものとしながらラブストーリーは存在し続けると思います。
» 【後篇】に続く
Netflix映画『クレイジークルーズ』
2023年11月16日(木)よりNetflixにて世界独占配信
エーゲ海に向かう巨大な豪華クルーズ船・MSCベリッシマを舞台に、お客様からの注文に無心で仕えるバトラー・冲方優(うぶかたすぐる/ 吉沢亮)と、ある目的のために客船に乗り込んできた謎の女性・盤若千弦(ばんじゃくちづる/ 宮﨑あおい)が、船上で起きた殺人事件の謎に迫っていくミステリー&ロマンティックコメディ。
https://www.netflix.com/jp/title/81502828
坂元裕二(さかもと ゆうじ)
1967年生まれ、大阪府出身。19歳で第1回フジテレビヤングシナリオ大賞を受賞しデビュー。「わたしたちの教科書」(CX)で第26回向田邦子賞、「それでも、生きてゆく」(CX)で芸術選奨新人賞、「最高の離婚」(CX)で日本民間放送連盟賞最優秀賞、「Mother」(NTV)で第19回橋田賞、「Woman」(NTV)で日本民間放送連盟賞最優秀賞、「カルテット」(TBS)で芸術選奨文部科学大臣賞を受賞。近年の作品には「anone」(NTV)、「大豆田とわ子と三人の元夫」(KTV)、「初恋の悪魔」(NTV)などがある。映画では、菅田将暉、有村架純主演の『花束みたいな恋をした』、是枝裕和監督作、第76回カンヌ国際映画祭脚本賞受賞『怪物』がある。
衣装クレジット
シューズ 90,200円
/Paraboot(Tel 03-5766-6688)
2023.11.15(水)
文=綿貫大介
写真=橋本 篤
スタイリング=DAN(kelemmi)