この記事の連載

 人の心の機微や“わかりあえなさ”を豊かに表現しながら、常に時代の空気を繊細に拾い上げ、数々の人気ドラマを生み出してきた脚本家・坂元裕二。彼は今、2023年の空気感をどう捉えているのか。

 インタビュー後篇では、初のNetflix作品『クレイジークルーズ』の公開を控え、時代の空気感を脚本にどう落とし込んできたか、そして近年の「考察ブーム」について感じることなどを尋ねた。【前篇】を読む


時代に必要なものをつくるのがトレンディドラマの作家

――『クレイジークルーズ』のインタビューの中で、ご自身をあくまで「トレンディドラマの作家」だとおっしゃっていましたね。それは懐古的な「都会に生きる男女のきらびやかな恋愛」という意味ではなく、「時代に合わせたトレンディをつくり続けている」という解釈でいいのでしょうか。

 時代に合わせているのではなく、時代に「必要なもの」をつくりたい。そういう風に思っています。自分が今の時代に必要だと思うものです。それに僕は時代には合ったことがほぼないんですよ。ヒット作なんて「東京ラブストーリー」という原作モノと、『花束みたいな恋をした』ぐらいで、本当にないんですよ。だから、そもそも時代に合わせているつもりは全然ない。ただ、こういう作品があったらいいのになと思っているものを、その時々につくる。必要だ、こういう作品があった方がいい、という意味で、時代を見ています。

――『花束みたいな恋をした』がヒットしたのは、時代と合ってきたということでしょうか。

 『花束みたいな恋をした』から、妙に時代と合ってきてしまっているのかなという思いはあります。随分前に書いた作品なのに、公開した頃にそれがちょうど脚本に書いたものや現象が時代の空気に似ていたり、そんなことが最近あって。なんか後追いみたいになって、ちょっと恥ずかしいですね。

――本作を執筆したのは2021年ということですが、台詞内にある「カンヌ映画祭」の話題などもまさに奇跡的な合致ですよね。狙ったようにしか思えなかったです。

 内輪ネタみたいになって内心恥ずかしいんですけど、そういうことも含めて自分がもう鋭くなくなってきたからだと思います。

――作品のテーマなど、常に先のことを見ていたはずなのに、時代が追いつくペースも速くなってきていると。たしかに「トレンディ」の意味を直訳の「最先端」と捉えるなら、坂元さんはずっと最先端を歩まれるトレンディドラマの作家であるといえると思います。数年後に見返して、こんなにはやい時期にこのテーマを扱っていたなんて、と思う作品も多々ありますから。

 それでも今はもう、放送する半年後には追いつかれているとか、そんな感じがしています。何年か経ってから、そういえばこの感じはあのドラマにあったなって思い出してもらえばいいって思ってたんですけど。

2023.11.15(水)
文=綿貫大介
写真=橋本 篤
スタイリング=DAN(kelemmi)