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長野の自然に敬意を払い、箱に写し込む

 「今回使用している木箱は、このアフタヌーンティーのために軽井沢の工房に依頼して製作してもらいました。木を随所に使うのは日本の文化であり、長野にも木を使う伝統工芸がたくさんあることから思いつきました。箱の底には透明な板をはめこんで、その下に草花や木の実をあしらえる仕掛けも。四季折々に移り変わる軽井沢の何気ない風景を閉じ込めて、セイボリーやスイーツとともに目でも楽しんでいただきたいと思っています」と、長江さん。

 あしらわれるのは特別なものではなく、軽井沢で過ごす長江さんが近所や庭、畑などで見つけた植物たち。撮影時には、コスモスと青紅葉で“夏から秋”を、青い栗と茶色い栗、ネコジャラシ、シロツメクサで“秋”を、落ち葉で”秋の終わり“を表現し、季節の趣を添えて。

「それらはまさに、人間の手では生み出せない、自然ならではの美しさ。箱のなかにそれを映し出したいと思いました」。

 そして食材も、長野県産の旬のものをできる限り使用。「長野県は、生産者がすぐ近くにいて、食材が身近にあふれている場所。『こんなにたくさんの食材が周りにあるんだ!』と、驚かされました。本当に貴重で、すばらしいことだと思います。そうであればそれを使いたいですし、それ以外の方法は私には考えられません」と、長江さん。

 朝、生産者の畑へ行って自らの手で野菜やハーブを収穫し、フレッシュな味わいをそのままセイボリーや軽食に。休日には果樹園へと足を運び、味わいを確かめながらスイーツやデザートに仕立てていきます。

 「自分たちがつくりたいものに食材を合わせるのではなく、手に入れた食材に自分たちがつくるものを合わせる。それは、東京にいたら絶対にできず、この場所にいるからこそできる仕事の仕方だと思います。生産者もおもしろい人たちがいて、お話すると相乗効果で新しいものが生まれることも。農家の人手不足やフードロス問題を考えることも多くあります。

 そうしてつくられるすべてのものにストーリーがあって、私たちもそれらと正面からきちんと向き合い、誠実な仕事をしていれば、味わう人にも必ずメッセージが伝わっていくはず。何より、やっている私自身がすごく楽しいのです」と、瞳をキラキラ輝かせながら長江さんは語ります。

 さらに長江さんがこだわったのは、温かいものは温かく、冷たいものは冷たい状態で、いかにゆったりと楽しんでもらうか。これまで長江さんが活躍の舞台としてきたガストロノミーなレストランでは、ひと皿ごとに1分1秒を争って提供し、熱いものは熱いまま、冷たいものは冷たいままお客様まで届けますが、すべてを一度に提供するアフタヌーンティーでは、そうはいきません。そこで考えたのが、ひとつひとつのセイボリーの下に敷く石のプレート。

 「温かいセイボリーには熱くした石を、冷たいセイボリーには冷やした石を敷いて箱に入れることで、少しでも長く温度を保てるよう工夫しました。石は、長野県の石屋さんにカットしてもらったオーダメイドです」と、長江さん。

 スイーツも、みずみずしくやわらかでありつつ、長くテーブルに置かれていても溶け出したり、形が崩れたりすることがないよう、ゼラチンやペクチン、アガー(海藻由来の凝固剤)を細やかに使い分けるといった工夫を。

「つまりは、レストランのデザートと、テイクアウトのケーキの中間にあるのが、このアフタヌーンティーのスイーツ。レストランクオリティの上質感と、素材の繊細な風味やテクスチャーを楽しんでいただきたいと思っています」。

 長江さんのこだわりが詰まったアフタヌーンティーの提供は、「クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢」が冬季休業に入る前の11月30日まで。秋深まる庭の景色を眺めながら、ゆったり、至福のティータイムを。

» 秋メニュー篇はこちら

森のアフタヌーンティー 長江桂子の世界 木箱14品

提供期間 2023年9月15⽇(金)から11月30日(木)まで
提供時間 11:30~18:00(L.O.17:00) ※2時間制。17:00予約は1時間制
料金 1名あたり8,800円 ※サービス料別途
※完全予約制(2名にて)

内容
<デザート>りんごとホワイトチョコレートバニラババロア、洋梨とジャスミンの香り、ヘーゼルナッツとマンダリンのシュークリーム、胡麻のクリスピー、小布施栗とカシスのタルト、エキゾチック、トンカ風味のチョコレートクリームブラウニー、うり坊マドレーヌ、スコーン
<セイボリー>季節のスープ、ハニースパイスチキンバーガー、CRSクレソンクロックムッシュ―、きのこリゾットのアランチーニ、信州サーモンとアボカドのタルト
<フリードリンク>
コーヒー、紅茶、ハーブティー

※「森のアフタヌーンティー 長江桂子の世界 3段スタンド14品」(8,800円)、「森のアフタヌーンティー 2段スタンド10品」(6,050円)もあり、1名からの完全予約制

クレソンリバーサイドストーリー旧軽井沢

所在地 長野県北佐久郡軽井沢町軽井沢680-1
電話番号 0267-46-8037
営業時間 10:00~18:00(L.O.17:00)
定休日 不定休 ※ホームページ参照のこと
https://www.cressonriver.jp/

次の話を読む軽井沢の森に重なる落ち葉の彩りを世界で活躍するパティシエが表現する美しきデザートプレート

2023.10.24(火)
文・撮影=瀬戸理恵子